小説

『踊る双子の姫と踊らない僕』和泉ミチ(『おどる12人のおひめさま』)

 見とれていると、踊りの輪が少しづつ回り、彼女がこちらのほうへ近づいてきた。

 僕の目の前まで来たら、話しかけよう、そう決心した瞬間
「めがね君!」
と、僕の背後から大きな声が聞こえた。
 振り返ると、僕の2~3歩後ろに、黒色の浴衣に赤い帯を締めた彼女がいた。黒い浴衣の彼女は、大きく手を振っていた。
 あれ?さっきの白い浴衣の彼女は?双子だったのか?向き直った僕の目の前には、白い浴衣の彼女がいた。
 笑顔で、小さく手を振りながら。彼女は、一瞬、誰?という感じで目を見開いて、そして僕に微笑みかけた。太鼓の音が大きく響いている。
 僕は恋に落ちた。

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