「ど、どうか今までの非礼をお許しください!俺、いえ、私は頭が悪いものですから、あなた様が神様だということがなかなか理解できず……」
お許しを、と叫びながら頭を擦り付ける俺に、爺さんの満足そうな声が降ってくる。
「良い良い。過ちは、誰にでもあるものじゃ。それより、寒いから早く家に上げてくれんかのぉ」
「は、はい!むさ苦しいところですが、どうぞ」
ドアを開けて爺さんを招き入れた。本当にむさ苦しいのぉ、という爺さんの発言にイラッとしつつも、必死で耐える。この爺さんにゴマをすっておけば、俺の将来は安泰だ。我が物顔でくつろぐ爺さんに安い茶を出しながら、おずおずと切り出した。
「それで、どういったアドバイスをしてくださるのでしょうか?お金とか、仕事に関するものだと助かるのですが……」
爺さんはちらりと俺を見ると、黙って茶を啜り出した。ちくしょう、もったいぶりやがって。それでも俺は笑顔を崩さず、爺さんの言葉を待った。
「……そうじゃのぉ、わしにとっては、お前さんの人生を良くすることなど造作もない。だが、今日はもう疲れた。明日から始めるとしよう。どれ、寝床はどこかのう」
爺さんは俺の布団にいそいそと潜り込むと、あっという間にいびきをかき始めた。お前がそこで寝たら、俺はどこで寝ればいいんだ。
だがそんな怒りは長続きせず、代わりに期待で心が弾む。まずは金だな。たくさん、使い切れないほどの金を手に入れて、豪邸に住もう。あとは海外旅行に行くのもいいな。豪華客船で世界一周してみたい。それから……。
冷え切った床の感触も横から聞こえる大音量のいびきも忘れて、俺は一晩中夢を膨らませ続けた。昇りゆく朝日がさえない部屋を照らし出すまで。
「宝くじ、当ててください!」
目を覚ましたばかりの爺さんに向かって、俺は床に頭をこすりつけた。
「な、なんじゃ、いきなり」
「俺、昨日考えてたんです、神様の力をお借りしてお金持ちになる方法。働いて稼ぐって手も考えたんですけど、手っ取り早く金を……いや、世の中のためになることをしようと思ったら、早い方がいいと思ったので。とにかく、宝くじ、買いに行きましょう」
自分でもよくわからない理論をこじつけて、爺さんを引っ張っていく。今はちょうど朝の9時だから、最寄りの宝くじ売り場はもう開いているだろう。爺さんは、引っ張るなとか、罰当たりじゃぞ、とかなんとか言っていたが、構わずにアパートの外に連れ出した。冷たく澄んだ空気がピリピリと肌を刺す。
朝の住宅街を突き進んでいくと、爺さんも流石に観念したのか、何も言わず俺の後ろを付いて来た。時折物珍しそうに辺りを見渡している。周りから見たら、さしずめ散歩する祖父とそれに付き合う孫というところだろう。死んだじいちゃんを思い出してなんとなく切ない気分になりながら、俺は歩を進めた。