他の参加者が助ける間も無く、力太郎は闇の中に消えていった。
「やっぱり鬼だったか」
浦島太郎が焦りと苛立ちをにじませた声で言った。
「最終戦に残ったモブは、それだけでフラグを立ててしまうんですね……」
一寸法師が茂みを見つめながら感心したように呟いた。
「そんなことを言ってる場合じゃない!早く逃げるぞ!」
桃太郎の声に、それまで硬直していた参加者たちが一斉に走り出した。鬼たちもそれに合わせて移動しているのか、茂みがガサガサと音を立てて揺れている。
「うわぁぁぁ」
「た、助けてくれ!」
後ろから悲鳴や激しい物音が聞こえてくる。桃太郎たちは脇見もふらずに走り続けた。
息が苦しくなってきたところで、後ろから何も物音が聞こえなくなったことに気がつく。スピードを緩めて振り向くと、5、6人いた他の参加者たちはすでに影も形もなくなっていた。
「全員やられたのか……?」
不気味な静寂が辺りを支配する。突然、右手の茂みが大きく揺れた。
「おい、くるぞ!」
そこから出てきたのは、2mほどの大きな鬼だった。鋭い目は血走り、大きな口からは尖った牙を覗かせている。
「こ、こっちにも!」
左の木の陰からも、金棒を持った鬼が姿を見せた。二体の鬼がじりじりとこちらに迫ってくる。いくら鬼を倒した経験があるとはいえ、桃太郎でも二体同時に相手にしたことはない。しかもこちらには武器も何もないのだ。一寸法師もすっかり縮み上がってしまっている。ちくしょう、ここまでか。
「なんだよ、随分大したことなさそうな鬼だな」
不意に、今まで黙っていた浦島太郎が口を開いた。
「浦島さん……?」
「だから、こんな奴ら俺一人でも十分だっつってんだよ。お前らがいると逆に足手まといで迷惑だ。さっさといけよ。俺も、後から追いつくから」
強気なセリフとは裏腹に、浦島太郎の手は小刻みに震えている。
「浦島、お前……」
「早くいけ!」
苛立った声に促され、桃太郎と一寸法師は走り出した。後ろを振り返ると、光に照らされた浦島太郎の後ろ姿が見えた。華奢なはずの背中が、今は誰よりも大きく見える。
「お前らと過ごした時間、悪くなかったぜ……」
浦島太郎の最後のセリフが、風に乗って聞こえてくる。
「浦島――!」