小説

『かぐや中年2.0』なにえ(『かぐや姫』)

もちろん、やつに拒否する権利なんてない。月の王子様を預かっているんだから、下手なことをしたら、地球VS月の宇宙戦争問題に発展するかもしれないんだから。うん。で、その8万円を握りしめて、購入したのは、自分を慰めるための様々なものであるのであるてんが。ああ、早く迎えにこねえかなあいい加減。

と、様々な慰みモノをそっけないビニール袋に突っ込んでうちに帰ってきてみたならば、リビングにひとりの若い女。「ダララララーのいりたえみです」と立ち上がり、名刺(これこそ、ちゃんちゃらおかしい愚の骨頂の四角い白い紙切れ)を丁寧に柔らかそうな手で差し出しやがったので、もちろん受け取ってまじまじ見たわけだ。どうやら、ダララララーと聞こえたのは、キャリア・カウンセラーと名乗っていたようで。その白い紙、白い顔を交互に眺めて、ほんと、無駄に白くて、このホシにはそぐわないと思ったわけなんだ。

まったく意味のないことに、母親(仮)は、俺といりたえみダララーを、2人きりにして、どこかへ消えちまったってわけ。ふたりきり、だなんて、俺が右手に赤い慰みものをたくさん握りしめていることに気がつきもしない母親の風上にもおけないおんなではないか。まあでも、白い顔を思う存分、真正面から眺められるっていうんなら、それも悪くはないのかもしれないだなんて思って、おとなしく、ちょこんと座ってみたわけだ。いりたえみの真正面に。きっちりと。

それにしても、キャリアをカウンセリングしようだなんて、馬鹿げた発想じゃないか。カウンセリングの意味をこのおんなはきっぱり理解していないらしい。「これがキャリアカウンセリングです」と、どこかのおっさんに言われたことを鵜呑みにした、のーたりんに違いないとふんだ。まさしく、ここまで愛らしい顔を持つおんななら、のーたりんの方が需要があるんじゃないかとまで思わされて。

絶対にこんな小娘の口車に乗せられて、汚らわしい労働なんてしてやらん、というのは当たり前のことだが、どうにかして俺は、この時間を長引かせたいという実際に支離滅裂な気持ちも持ち合わせていたのは、ここ数年、母(仮)父(仮)という冴えないメンツとしか正面切って話すことはなかったのだから、そこは責めないでいただきたいというもの。

「ではまず、これまでのご経歴をお伺いしたいのですが。大学は一年で中退されていて、これまでは正社員経験はなし、と、アルバイトはどのようなものをされていましたか? 短期のものでもかまいませんので」とそのニコニコ顔を眺めていたいような歪ませてやりたいような意味のない発話をするものだから、俺はもちろん言ってやった。「これまで一度も外で働いたことはありません」と。

「え。えっと、タケヲさんは現在30代後半でいらっしゃいますよね。今まで、一度も?」「はい。メルカリでものを売って収入を得ていたことはありますけどね。ママの服とか、これが奇想天外な値段で売れるものですから」。にして、この黒目の黒いこと。「そう。ですか。えっと。えっと」と伏し目がちな女。「それは、何か理由があるんですか?」「え?」「え?」「え?」「え?」これを永遠に続けてもいいのだが。

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