小説

『かぐや中年2.0』なにえ(『かぐや姫』)

とにかく俺は、こんなくだらないゲームから一刻も早く降りたいっていうわけなんだ。ゲーム? どこにある? なんて言わないでくれよな。これが腐ったゲームで茶番でないんだったら、いったい何が、と言いたいわけだよ。そう、この地球っていう、腐った、淀んだ、濁った、クソつまらないフィールドを生きるっていうゲームのこと。早く終われ。

まあ、俺だって最初からそんな腐ってたわけじゃない。もちろん、現在アラフォー(この呼び方もクソだが今はあえて使う)の俺でも、25のとき、いやハタチのときは、もう少しましな人間だった、ように記憶している。そうであってほしい。あれは、いつのことだったのか、偽善ったらしい目でいつも俺を見ている、そう「両親様」。俺を豚のように、この地球に縛り付けて飼い殺しにしようという両親様のあのひとことを聞いたのは、いつのことだったのだろうか。

「タケヲはいずれ月に帰っちゃうのだから、それまではめいっぱい、甘やかして育てましょう」なんていう、上品ぶった声に、純粋無垢だった俺は、心底打ちのめされちまったってわけなんだよ。うん。つまり、よくある昼ドラみたいなこと。本当の息子じゃなかったってさ。それで、誰が俺を産んだんだよって話。そこんとこは俺ももちろん気になった。答えは、「竹から産まれた」んだと。ここまで実の両親に馬鹿にされて、それでも明るい好青年に仕上がるのを期待していたとしたら、ほんとそれこそお笑いぐさだろう。

だから、俺ときたらまあ、「いずれお月様、あの輝かしい丸いものから、迎えがくる」って事実をすんなり受け入れ、じゃあ、まあ、ここで、今何を頑張っても無駄無駄無駄無駄、ってことに早々に、うん多分、小学校低学年くらいのときまでには、気がついてしまっていたってわけ。御愁傷様でした。

労働。そんなものに、もちろん用はないだろう。俺が月からきた王子様的存在なのだとしたら、こんなカースト最下位のホシで、何をしても恥。そもそもの話、俺の美徳を生かせる仕事、労働、労務、労役、なんでもいいが、なんてものここにありはしないのだから、低レベルの次元に自分を貶める必要はまったく感じなかったっていうわけよ。

そして、いつか月の光が降り注ぎ、空の上では毎晩宴会が開かれて、俺には何かキラキラしたものたちがまとわりついてくるのだろうから、今はただ、寝転んで、漫画でも読んでいた方がいいってわけ。それにしても、いつ迎えにきてくれるんだろうか、という疑問はときに頭をかすめるけれど、もちろんそれだって、下等な考えなわけだ。

俺の父親(仮)母親(仮)は、「もう年金をもらう年齢になった。タケちゃんにも自立してほしい」なんて、去年ごろからやっとこ抜かしやがる。これは、まさしく地球人の言いそうな、自分勝手極まりないことじゃないか。ほんの一瞬前まで、「この腕のなかでお眠り。どこにも行くんじゃない。外は危険だよ」なんて抜かしくさっていたっていうのに。俺は、その手には乗らないんだから、「お母様、8万円ほどいただけませんか。就職するためのスーツを買いに行きたいんです」とでも言っておこうか。母(仮)の目は、期待と不安で漂っているが。

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