「わかりました。約束っすよ」
朝霧さんの秘密主義が気になるが、運転は快調だった。
夜の高速道路上では、渋滞は全く発生していない。時折、追い越し車線に入り、大きな輸送トラックの脇をすり抜ける必要がある程度だ。
加えて、クーラーボックスには何かが入っていることが判った。車内が振動するたびに、トランクの方向から小さく、カタ、という微細な音が聞こえるのだ。ぎゅうぎゅうに詰め込まれているというより、四〇センチという大きさに合わない小さい物が入っている、と推察した。左手だけで載せていたようだし、中身が軽いことは間違いない。
「高梨くん、運転するの好きなんだっけ?」
不意に朝霧さんが質問してくる。
「学生時代、田舎の大学だったんで、バイト代を貯めて軽自動車を中古で買ったんですよ。それで、ダチとか誘って遠出することも多くてですね」
「デートとかじゃなくて?」
「まあ、誘い水にはなりますけど。……意地悪なこと言わないでください」
朝霧さんの乾いた笑い声が、車内に響いた。「そうだよね。高梨くんって姑息なイメージ」
「慎重派なんすよ」
「だから、好き」
「あ、そぅっすか?」いきなりの言葉で返答に窮する。
「本当だよ」朝霧さんは念を押すように口にした。
「嬉しいっすね」
馬鹿みたいな返答しかできなかった。
埼玉県から栃木県へ入った辺りから、僕は少し眠気を感じるようになった。
我慢できずに、ラジオをつけ、軽快なリズムの九〇年代洋楽ポップスを車内に流していた。
「そろそろ休憩してもいいっすかね?」
少し段差があり車内が揺れて、トランクの方向から、カタ、という音が聞こえる。
「ごめんね、かなり運転させちゃったもんね。近くのサービスアリアに入ろうか? ……でもな、サービスエリアとかって人が多くて苦手なんだ。知り合いに会うかもだし」
「一回高速降りて、飯食うのもアリっすけど」
時間はまだ二〇時過ぎだ。食事をする時間はあるだろう。
「それ、いいかも」
「ケータイとかで飯食うところ、調べてもらってもいいすか?」
「携帯電話、置いてきちゃったんだよね」