純白の花弁が地面を覆いつくし、丘向こうの景色を輝く雪原へと変貌させていた。
揺らぐ小さな花弁を踏んでしまう躊躇を覚えながらも、私はスノードロップの平原へと丘上から下り始める。モモちゃんは私を先導する様に、波打つ白い雪原上をひょこひょこと飛び跳ねながら歩く。
下り始めて気付いた。下り先の白い絨毯上にいる真っ赤な人物の背後が。
純白の上に浮き出てしまう真紅のドレスが靡いていて、それと同等に白い世界に不釣り合いな長い金髪。
彼女も揺れている。ロッキングチェアだ。このスノードロップの雪原に、振り椅子を置いて揺らいで寛いでいるのだった。
モモちゃんを伴って、その金髪の女性の背後に私は近寄って声を掛けた。
「あの……」
声に応えて彼女は振り向いた。
真っ赤で大きな扇子を持ち口元をやや隠し気味に。
真っ白な肌で鼻先が長く太い。そして目が切れ長で大きくて。そう、人の顔じゃなかった。
バクの顔だった。当時の私にはゾウにも見えた。白い肌の金髪のバクが、ギョロリとした瞳で私達を睨み返してきていた。
垂れ下がった太い鼻先からフンと鼻息を出したかと思うと、渋いハスキーな声で高らかに笑い出した。
「おーほほほほほぉ! あらまあ珍しい客さまで! こんな綺麗で可愛らしい御嬢様がこんな所に!」
その迫力にたじろいだ。でも思わず逃げ出したくなった足を踏みとどまって私は睨み返す。
足元でモモちゃんがウーと唸りだした。吠え掛かるかと思い、また私はモモちゃんを抱きかかえた。
「……あの、こんな所で何をされているんですか?」と私は怖々とバクの婦人に訊いていた。
「私? 日光浴よ、日光浴! この澄んだ蒼空からの光と雪の花からの照り返しも受けてね! 上からも下からも存分に陽を受けて、タップリの紫外線でこの白い肌を壊しまくっているのよ! おーほほほほ!」
バク婦人は大きな目を細めながら更に高笑いをしていた。
それを見て私の胸でモモちゃんが喉を震わして更に唸っている。
「壊すって……綺麗なのに、わざわざ肌を傷めるの?」
「あら貴方は何にも分かってらっしゃらない! 世の美を追究するなら壊すのが基本! 何もかも破壊から美が生まれてくるのよ!」
婦人は万歳して胸元を開き、これでもかもと陽を身体に浴びせて見せる。