小説

『ビートルズ』もりまりこ(『変身』『冬の蠅』)

 ふいに愛川さんのことばが甦ってくる。なにげなく、インターフォンが鳴っていないのにその受話器を取った。
 白くて重いその受話器から夜の風の音だけが響いていた。耳の中で誰かの吐息のように聞こえる風の音。いまわたしは夜の音をただただひゃっぱー聞いていた。

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