三人が次に訪れたのは、恩鳥かほのアパートだった。猫錦の部屋から歩いて十分とかからない。
インターホンを鳴らす恩鳥の表情は硬く、緊張しているようだった。
「私、猫錦だけど。恩鳥、話があるの」
しかし鳴らしても誰も出てこない。猫錦がドアノブに触ってみると、どうやら鍵は開いているらしい。
三人で示し合わせて頷くと、扉を開いて侵入した。
「ねえ恩鳥。いるの? 入るよ」
部屋の中は酷いありさまだった。空になったカップラーメンがそこかしこに散らかって、臭いが充満している。乱立したゲームのパッケージが山脈となり、淀んだ空気に当てられて灰色に見えた。カーテンさえ閉め切られて薄暗い。
この古城とも言うべく一室のベッドで、恩鳥は寝ていた。騒がしさに目を覚ましたのか、低くうめくと「誰?」と言った。
「猫錦だよ。勝手に上がらせてもらった」
「ああ。久しぶり」
のんびり受け答えると、後ろに立つ見慣れない二人に首を傾げる。それから馬兎と犬ヶ丘の自己紹介をぼうっと聞いていた。
「随分部屋が汚いけど。ちゃんと掃除したらどう?」
「うん。三週間部屋から出てない」
恩鳥の返事はちぐはぐだった。
「ゲームが忙しい」
「そんなことだろうと思った」
猫錦は呆れたため息をつく。
「そんなんじゃ、いつまでも友達できないよ」
「外は怖いから出なくていいや」
「私がいなくなったらどうするの」
「猫錦いなくなるの? それ、やだな」
恩鳥は顔をしかめた。
「でも別に何も変わらないかな。ずっとゲームするだけ。どうせ何もやる気なんて起きないし。友達もできないし。私はこのままここで干からびて死ぬよ」
彼女は淡々と言った。何があったのか分からないが、馬兎の目には恩鳥が涙の枯れ果てた後のように見えた。
しばしの沈黙の後、
「恩鳥に提案があるから、聞いて」
と猫錦は真剣に言った。
「私達はこれから海へ行って、自殺しようと思っているの。アンタもご一緒にどう?」
「それいいね。私もご一緒するよ」
深く考えることもなく、恩鳥は嬉しそうにそれを承諾した。
彼女に別れを告げたい人はいなかった。
※
夜になり、四人は一緒にご飯を食べることにした。これから一緒に死ぬことについて計画を詰めなければならないのもあった。