小説

『ウイメンの水死体』紗々井十代(『ブレーメンの音楽隊』)

 「私の部屋で鍋をやりましょう。みんなで食材を持ち寄って」
 馬兎の提案でそうなることが決まった。もっとも他三人の家に食材と呼べる食材はとぼしく――あまつさえ、恩鳥はカップラーメンを持ってきた――闇鍋もいいところだったのだが。
 「いい最後の晩餐にしましょう」
 四人はしみじみ頷いて大切に鍋をつついた。
 最初こそちぐはぐで、ぎこちない四人だったが、赤ワイン――猫錦の持ってきた――を開けてからはすっかり意気投合した。
 中でも一番はしゃいだのは恩鳥で、「人と喋るって楽しいね」としきりに言った。
 「レポートを書かないのは心が落ち着くよ」
 と言ったのは犬ヶ丘。
 「肌の調子に気を使わないから楽ね」
 これは猫錦。
 どうやら四人は馬が合うようで、今までになく楽しい時間を過ごすことができた。
 宴もたけなわの頃、ようやく自殺についての話し合いになる。
 「私はやっぱり海が良いと思うの。星を見ながら最後に波にさらわれるなんてロマンチックだわ」
 馬兎のうっとりとした提案に猫錦は首を横に振る。
 「私は反対。水死体って物凄く醜いじゃない。練炭が一番だな、一番死体の形が美しく残るもの。押し花みたいに」
 しかしこれには犬ヶ丘が否定的な見解を出した。
 「練炭って酸欠だから物凄く苦しいんだよ。それよりも一瞬で死ぬために、飛び降りた方が良い。なるべく高いところから」
 今度は恩鳥が口を挟む。
 「私は高いところダメだから。それなら首を吊る方が良いよ」
 議論は熾烈を極めた。あっちを立てればこっちが立たない。四人の要望を余すところなく満たす死に方はなかなか見つからなかった。

 ワインが二本と空になる夜更け、四人はようやく答えを出した。
 「それじゃあ大量服薬で異論ないわね」
 馬兎の最後の確認に、三人はしっかりと頷いて見せた。
 決め手は二つあった。一つは、犬ヶ丘のゼミの研究室から薬が手に入るということ。もう一つは、みんなでのんびりと死ぬことができるということ。
 お酒をたくさん飲みながら、ぽりぽり薬をつまんで騒ぐうちに、一人、また一人と静かになっていくのだ。それは緩慢に終わりを迎える祭りのようで、とても魅力的に思えた。死体の損傷だってない。
 ようやく肩の荷が下りたように思え、四人はうんと伸びをすると、酔い覚ましの散歩がてら、研究室に薬を盗みに行くことにした。
 八月の夜は蒸し暑く、田舎町の空には溢れんばかりの星が輝いている。
 そういえば彼と別れた日もこんな夜だったと、馬兎は不意に思いだした。
 「どうしたの」
 物憂げな馬兎の表所を敏感にくみ取って、恩鳥は尋ねる。
 「私を振った男のことを思い出していたの」

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