小説

『ウイメンの水死体』紗々井十代(『ブレーメンの音楽隊』)

 小さな灯りを頼りに、人影は着々と自殺の準備を進める。
 その間、四人は相談して上手い方法を見つけた。
 まずは慰霊碑の後ろに回る。足音を立てないよう、細心の注意を払って一人ずつ。幸いにもそれは近い位置にある。
 戦没同窓生の名が百と刻まれたその慰霊碑の裏で、四人は低く呻いた。
 静寂に響く不気味なうめきに、人影はびくりと身をすくめた。既に手はロープの輪を掴んでいる。その声が慰霊碑から響いているらしいことに気が付くと、一層震えあがった。
 そこで四人は一斉に飛び出した。
 馬兎は、ヒヒーン。
 犬ヶ丘は、ワンワン。
 猫錦は、ニャーニャー。
 恩鳥は、コケコッコー。
 と、叫んだ。
 自殺志願者はビックリして飛び上がると、脇目もふらずに逃げていった。お化けが出たに違いないと思ったのだ。
 大急ぎで山を下る恐怖の叫びが遠くへ消えていき、やがて聞こえなくなると四人はハイタッチを交わした。
 「まさか人の自殺を止めるとは思わなかったわ」
 「私たちが死ぬはずなのにね」
 そんなことを言って笑いあった。
 木に結ばれたロープをほどくと、四人は帰りがけのゴミ置き場に捨ててしまった。そのあとは疲れて――研究室に寄ることもなく――馬兎の家で揃って雑魚寝した。

 それから四人は定期的に集まって遊んでいる。
 馬兎は新しい男を作るし、犬ヶ丘はレポートに追われる日々。猫錦は生きることへの本質的な美を見出し、恩鳥は三人の友達に囲まれて幸せそうにしている。
 自殺なんて二度と考えず、いつまでも四人で仲良く生きたということだ。

1 2 3 4 5 6 7