やっぱりお前じゃない、って何かしら。失礼しちゃう。そうやって怒ってみせると恩鳥は笑った。
「でもそのおかげで私達友達になれたから。悪いけど私は嬉しいよ」
彼女の無邪気な笑みに心打たれ、
「これからも四人で集まりましょうよ」
すんでのところで、馬兎はそう口にするところだった。
突然の気付きに、雷に打たれたような気分だった。
この四人にこれからはないのだ。
鍋を食べることも、旅行に行くことも、恋をすることも、二度とないのだ。
当たり前のことなのに、考えたらどんどん寂しくなって、泣きたい程だった。それでも最初に言い出した手前、泣き言は言えなかった。
暗闇を分厚い静寂が駆けていく。
誰からともなく、四人は手をつないで歩いた。
ひょっとするとみんな、同じことを考えているのかもしれないと馬兎は思った。
大学キャンパスの入り口で、ふと怪しい人影が見えた。時刻は午前一時。大学周りの学生街なので人影は珍しくない。飲みつぶれた学生が散歩をしていることだってよくある。
しかし怪しいのはその挙動だった。胸に抱えた大きな白い袋が街灯に照らされて、キョロキョロと辺りを伺い、人目を忍んでいるように見える。
四人は黙って目配せし合うと足音を抑え、手をつないだまま慎重に人影の後を付け始めた。
人影はその後もキョロキョロと闇を駆け、校内の「山」へと入っていった。
この「山」とはキャンパス内にある盛り上がった雑木林のことで、山頂は慰霊碑の建てられた休憩所となっている。人目に付かないため、全面禁煙たるキャンパスの隠れた喫煙所として愛用されている側面もあるらしい。山の入り口に散乱した吸い殻がそれを物語っていた。
舗装のない足場が土をむき出しに、無秩序に並んだ木々から枝葉が落ちている。ただでさえ薄暗い夜に、山の中は一層闇が深い。遠くの方で白い明かりがぶらぶらと漂い、そこに追っている人影いることを知る。
何故あの人影を追っているのか、誰も訊ねなかったし、訊ねても誰も答えることができなかった。きっと四人とも、目を逸らしたかっただけなのだから。
より足音に注意を払いつつ、四人は先へ進む。山道ではぱき、とも、ぺきとも鳴りかねない。暗闇にも目が慣れて、明かりなしでも歩くことができた。何より四人とも手を繋いでいるのだ。
山頂がようやく見えると、四人は木の陰に隠れた。一番視力のいい馬兎が目を凝らす。
「ねえ。馬兎ちゃん、何が見える?」
木々のざわめきに紛れて、恩鳥が小さい声で訊ねた。
「何が見えるかって。……胸に抱えた袋からロープをとり出しているわ。それから……木に結んでわっかを作り始めたわね」
そこで四人は息をのんだ。その人影が何をしようとしているのか分かったのだ。
これを阻止することで、四人の意志は無言のうちに決定していた。