砂に血がしみて、どす黒くなっていく。
刀が頭に引っかかってしまって、抜けない。
何とか抜こうと刀を左右に捻ると、赤鬼の体がびくりと動いた。
思わず情けない声が出て、刀がすっぽ抜けた。
犬が吠える。
訳の分からぬ叫び声が聞こえて、すっ飛ばされた。
口の中に砂が入った。
目を開けると赤以上に顔を赤くした別の赤鬼がおれに馬乗りになっている。先ほどの鬼よりもでかい。そいつが、拳を振り下ろした。
おれの視界が真っ赤になった。
目が潰れたかもしれない。
この赤鬼は、さっきの奴の家族だろうか。
さっきの奴はきっと死んでいる。だから、おれは殺されても文句は言えない気がする。
そうやって世の中のつり合いは取れているのだと思う。
本当にそうか?
おれはおれの意思でここにやって来た訳ではない。半ば強引に送り出されたのだ。つまり、あのガキが死んだのは、おれのせいではなくて、おれを送り出した奴らのせいだ。
だから、おれがここで赤鬼に殴り殺されるのでは、つり合いが取れていない。
赤鬼が片手を振り上げた瞬間を狙って、おれは体を捻った。
反撃があるとは思っていなかったのか、赤鬼は怯んで、その隙に抜け出すことができた。
勢い立ち上がって、転がっていた刀を拾って、まだ砂に膝をつけている赤鬼に斜めに振り下ろした。
キュウン。
赤鬼から血がみかんの汁のように滲み出た。そして、滝のように流れ出して、その飛沫が、おれの顔にも飛んできた。
赤鬼は死んだ。
砂と血の味がおれの口の中で混じって気持ち悪い。
とっくに犬も猿も雉もいない。
波の音に砂を踏む音が聞こえて来た。
それもたくさん。
鬼たちが凄い形相でやって来ている。
これをおれ一人で相手するのか。
無理だ。
おれは刀も何もかもがボロボロだし、全てをかなぐり捨てて、突っ込んだとしても、犬死にするだけだ。
つり合いが取れていない。
逃げる。
おれは船へと駆け出した。
鬼たちも駆けて来る。
砂が舞い上がる。
船に飛び乗って、慌てて櫓を漕ぐ。