小説

『裏島太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

「え?なに言ってんだ?」
 中年は手で発言を遮るジェスチャーをした。

「声がでけぇ。頭に響く、ちゃんと聞こえてるから」

 言った途端にデジャヴを感じた。あえて行動をなぞろうとしなくても時間は忠実に繰り返していることに気づいた。改めて自分自身の体を見る。
 鍛え上げた身体は見る影もなくなっていた。

 亀の甲羅のようだった腹筋も無くなっていた。だからカメナシか、なかなかいいセンスしてるじゃねぇか。

 中年は笑いを堪えきれず爆笑した。

1 2 3 4 5 6 7 8