小説

『裏島太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

 一体どれくらい体を重ねたのだろうか。互いに汗だらけになっている。気づけば亀梨も向かい側で行為に没頭していた。 Tamate-BKの効果なのか、一向に体は疲れず互いにオーガニズムを幾度も迎えていた。壁の時計は11時40分を指していた。

(・・・11時40分?おかしいだろ・・・)

「気づいたようだなぁ。Tamate-BKは時間の主観に作用する。時計で測る1分が皆同じに感じてるなんて思うなよ。格闘家ならわかるよなぁ、ラストラウンドの長い長い3分が。このセリフよく覚えておけよぉ」
 行為を続けながらはずむ息で亀梨は言った。

 亀梨のその言葉を聞いたのはどれくらい前だろう。
 次々と押し寄せる快楽の波に青年も乙姫もとめどなく涙を流していた。
 男と女というものに分かれる前、アメーバーの状態に戻るようだった。
 意識の境界がなくなり、彼女と青年は融け合い、気を失った。

「ドープアウトしました」ボーイが亀梨に告げる。
「構わん、予定通りだ。」亀梨も目から涙、口角からはだらしなく涎を垂らしている。
「こいつをクルーザーに乗せて海岸まで送れぇ。おれも一緒に行く。すぐに降りる。」


 クルーザーは昨夜迎えにきた海岸に到着した。
 亀梨と迎えにきた男は砂浜に数時間前まで青年だった中年を転がした。
 デッキに戻ったところで亀梨は男から後頭部に銃口を押し付けられた。
 本人は気づいていないが、さらに亀梨は二十歳ほど年を取っていた。
「どんだけ怖ぇおとぎ話だよ・・・」
 老人のようなしゃがれ声を最後に、引き金は躊躇なく引かれた。


「・・・っさん!大丈夫か!?」
 口に水を注がれ、むせ返した。
(誰だよ、うるせぇ)
 青年は目を開き声の主を見た。
(おれじゃねぇか・・・)

 愕きとともに全て理解した。昨日助けた亀梨という男は自分自身だったのだ。
「ということは亀梨の行動をなぞればいいってことかよ。そうすればもう一度Tamate-BKを・・・」
 快感は骨の髄まで記憶されているようだった。あの全てが融けるような快感を味わうためだったらどんな芝居でも打とう。

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