小説

『裏島太郎』木暮耕太郎(『浦島太郎』)

 美女たちとの宴は続き、青年も酔いが回ってきた。壁のアンティーク時計は11時半を指していた。

 ボーイが亀梨に近づき耳元で何かささやいた。亀梨は虚ろな目で、いいぞ入れろというようなジェスチャーをした。カーテンをくぐってきたのは、この美女集団の中にいても別格に際立った美女だった。下のステージで踊っていたのだろう、汗が光を反射して艶めかしい。

「君が亀を助けた浦島太郎なら、ここは竜宮城。そいつは乙姫ってところか。まぁ楽しめ、夜は長いんだ」

 気づけば亀梨の両脇の女と、乙姫を残して女たちはいなくなっていた。
 亀梨がボーイに言った。

「Tamate-BKを持ってこい」

 ボーイはすぐに戻り、小箱を青年に渡した。
 青年が箱を開けると亀梨が砕いて摂取しているものと同じような錠剤が入っていた。

「おっさん、おれはクスリはやらねぇぞ。セキュリティがヤク中って笑えねぇだろ」

 亀梨は「言ってろ」というようなそぶりで口角を上げた。
「ぐたぐたうるせーぞ。」隣に座っていた乙姫がからかうような可愛い声でゆっくりと悪態をつくと同時に青年にまたがった。

 汗ばんだ胸を押し付けられると香水の匂いがした。
「おい!」と押し払おうとしたそのとき、青年の首に手を回し濃厚なキスをしてきた。
 乙姫の口から青年にカクテルが移される。カクテルには彼女の口内で砕かれた錠剤が混ざっていた。飲み込むまで乙姫は腕と唇を離そうとはしなかった。
 青年が耐えられずにTamate-BKを飲み込むと、体中の細胞が光りだしたかのような熱を感じた。

「いってらっしゃい」亀梨が静かに声をかけた。
またがった乙姫は物欲しそうな目で青年に行為の続きを促した。亀梨の言葉が頭の中で繰り返される。(人間はなんのために生きている?つまるところ快楽だろ。)
 彼女を抱き寄せると体中が性器になったような快感がはじけた。

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