小説

『謎のパスモ』太田純平(『謎のカード』)

 刹那――また、病気のように足がすくんで、電車に乗りそびれてしまった。
 ホームドアが閉まり、続いて電車のドアも閉まった。
ガラス越しに冷たい視線を送り続ける美女に、俺は叫んだ!
「ツキシロアヤノ! アンタ一体何者なんだッ! このパスモはッ! このパスモは一体なんなんだよッ!」
 俺の虚しい叫び声は、ホームの客を驚かせる効果しか無かった。
 美女を乗せた各駅停車が遠ざかっていく。
 結局俺に残ったのは、もう使えなくなった謎のパスモと、臆病極まりない自己の性格だけだった――。

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