俺は涙を拭い、思わず顔を上げた。
「!?」
美女だ。あの時の、美女だ。
あの時の美女が、オレの目の前を通って、東横線の乗車口の前に立った。
キ、キタ!
やっと!
やっと会えた!
神様――もう迷わないよ。
俺はベンチから立ち上がり、彼女に声を掛けた。
「ア、 アノォ」
美女が振り向いた。
「コ、コレ――」
あの日、あの時渡せなかったパスモを渡した。美女は一瞬目を見開いたが、すぐに顔から興味が失せた。
「三週間くらい前、あなたが落とした物ですよね?」
「それが?」
美女は高圧的な態度だった。しかしこの美女には、何故かそれがよく似合う。
そりゃあ、出来れば嫌われたくない。このままずっと、美女とおしゃべりしていたい。だけど、言わなきゃダメだ。散々、苦労したじゃないか。ちゃんと――ちゃんと言わなきゃダメだ!
「ア、 アノォ……あなた、一体何者ですか?」
美女は怪訝な顔をした。
警笛が鳴って、各駅停車が来た。
電車の騒音に負けじと、俺は声を張った。
「アノッ! このパスモは、一体なんなんです!?」
美女を救いに来たように、電車が到着した。
美女は降りて来る客を避けながら、冷たく言った。
「別にもう、再発行したから」
「イヤ、そういう事じゃなくてッ!」
「しつこい。ナニ? ストーカー?」
「俺は……俺はこのパスモのせいでッ! 散々な目に遭ってきたんだッ! ツキシロアヤノ! アンタのせいでッ!」
発車メロディが鳴った。
「再発行なんて出来ねぇんだよッ! 俺が失ったもんは、再発行なんてッ!」
扉が閉まり掛かる直前で、美女はスッと電車に乗った。
「アッ!」