小説

『謎のパスモ』太田純平(『謎のカード』)

 駅員はまるで犯罪の確たる証拠を掴んでいるように、厳しい目で俺を見下した。ウザッ。この駅員ウザッ。
 そこから暫く、謎の待機時間を過ごした。無理に逃げるのは怪しい。駅員にあれこれ説明したって、きっと時間の無駄。
 男は黙って、待機。
 別に大学の二限なんて、一回出なくても何の支障も無い。それに何より、やましい事は何も無い。早く誤解を解いて、目の前にいる駅員をとことん軽蔑してやろう。
 若い警官二人組が来た。いつも思うが、わざとらしいぐらいガタイがいい。一般市民を守るというより、威嚇が目的ではないか。
 駅員が警官に、小声で事情を説明した。
 警官は「なるほど」と短く相槌を打って、こちらに近付いて来た。
「パスモぉ、拾われたんですかぁ?」
「ハ、ハイ」
「いつ拾われましたぁ?」
「さ、さっき」
「本当に拾われましたぁ?」
「ハイ……」
 今まで嫌う理由なんて無かったが、今日、ハッキリ警察が嫌いになった。
「チョット署までご同行願えますかぁ?」
「ハイ?」
「チョット署までぇ」
「イヤ、だって――」
 いわゆる任意同行というやつだろうか。任意だ、任意。しかし断れる雰囲気ではなかった。というより、こうなったらとことん説明してやろうじゃねぇかという、怒りが湧いてきた。
 警官二人に連行された。駅から地上に出るまでの、周囲の目が痛かった。大学生らしきグループに「痴漢かな?」「ウケる」などという言葉を浴びせられた。どこ大だろう。後で覚えてろよ。
 てっきり、駅前の交番に連行されるのかと思った。しかし予想に反してパトカーに乗せられ、戸部警察署まで連れていかれた。
 オイオイ。
 パスモだぜ、パスモ。たかがパスモを拾ったくらいで、大袈裟すぎねぇか。
 警察署につくと、二階の取調室に通された。
 連行してきた警官達とは別の男が入って来た。中年のオッサンが一人。
 オッサンは部屋の扉を閉めると、開口一番怒鳴ってきた。
「どうやって手に入れたッ!」
「え、えぇ?」

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