小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

「今日と言う日を迎えられて、俺は……、俺は……、嬉しい!」と言って、悠馬は、腕で涙ぐむそぶりを見せた。
 泣くなー!、大根役者!などと男子の掛け声と、笑いが続く。
「ばれたー?」
 悠馬は、涙を拭う素振りをしていた腕を顔の前から降ろすと、お決まりの笑顔を振りまく。
「それじゃあ、早速乾杯したいと思いまーす!みんな、飲み物持ってるよねー?」
 悠馬が皆を見渡す。
「はい、では、久しぶりの再会を祝して、かんぱーい!」
 悠馬の発声に、みんなが、かんぱーい!と応じ、同窓会がスタートした。

 乾杯の後、しばらくすると、悠馬と淳平が真由美たちのところにやってきた。幹事ということもあり、早々に席を周回しているようだ。
「いやー、菜々美ちゃんだよねー。相変わらずお美しー」
 悠馬が、菜々美にへつらう。
「ちょっと、他にも美人いるんですけど!」
 美幸がふくれっ面をする。
「あっ、ほんとだ!美幸ちゃんだよね。そして、こちらの美人は、はなちゃん。そして、この美人は……」
 真由美を指さしながら、悠馬が思案している。
――あっ、やっぱりわからない……。
 真由美は何だか後ろめたくて、背中がじとっと汗ばむのを感じる。
「まゆちゃんだよ」
 はなちゃんが、すかさずフォローを入れた。
「えっ、まゆちゃん……!?」
 悠馬の動きが止まる。
 淳平が、「まつだまゆみさん?」と尋ねてきたので、真由美は「うん」と顔を伏せた。
「うわぁー、わかんなかった!結構、変わったねー。でも、綺麗になったよ、うん、綺麗になった」
 悠馬が感嘆の声を上げ、「なっ!そう思うだろ、淳平もそう思うだろ!」と淳平の背中をたたく。
「うん……、ちょっとイメージ変わったね」という淳平に、「整形したのよ!」と菜々美が冗談っぽく言った。はなちゃんが、「ちょっと!」と制すると、悠馬と淳平は、ご冗談をという感じでハハッと笑った。
――容姿の話ばっかりだな……。
 特殊メイクをしている後ろめたさが居心地の悪さを増大させていく。
 そのとき、「おおっ、まさとじゃねーか!」と男子から声が上がる。
 入口の方を見ると、菅原正人が立っていた。

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