小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

「あっ、そうそう。松田さん、ピアノ得意だよね?」
 正人が話題を変える。
 真由美は、小さい頃からピアノを習っていて、かなりの腕前だった。高校のクラス対抗合唱コンクールの時はいつもピアノ担当だった。正人はそれを覚えていた。
「俺、バンドやっているんだけど、キーボード探しているんだ。松田さんやってくれない?」
 突然のことで、すぐに答えられない。
「この前の同窓会で言おうと思っていたら、松田さん帰っちゃったから」
「あっ、ごめん……」
 いきなり責められたと思った真由美は謝った。
「いや、そういうつもりじゃなくて……」と正人は慌てて手を振る。
 正人の慌て方を見て、「プッ」と真由美が吹き出す。「そうだよね。突然帰っちゃたよね。ビックリだよね」と自分の行動が可笑しくなってきて、クスクス笑いだした。
「うん、突然帰った」と正人もフフフッと笑い始める。
 何だか可笑しくなって、2人はケラケラと笑い続けた。

 ライブ開始ギリギリになって、はなちゃんたちがライブハウスに入ってきた。それを見計らって、ギターでボーカルの正人がライブの開始を宣言する。
「皆さん、今日は集まってくれてありがとうございます!」
 真由美と目が合ったはなちゃんが胸元で小さく手を振っている。真由美も小さく手を振る。周りには、美幸、悠馬、淳平がいる。そして、菜々美も。みんなが聴きに来てくれた。みんなに会うのは同窓会以来。ライブが終わったら謝らなきゃ――、と真由美は思った。菜々美と目が合う。菜々美が、この前ごめんというようにペコッと頭を下げた。真由美もペコッと頭を下げる。菜々美が笑顔になり、真由美も微笑んだ。
 結局、真由美は正人のバンドに入り、今日が真由美にとって初めてのライブだった。
「僕たち、ホワイトスワンのライブにようこそ!今日は新メンバーのキーボードを迎えてお届けしまーす。」
 パチパチパチとの拍手とともに、ドラムのカウントする声が響く。
「ワーン、トゥー、ワン、トゥー、スリー、フォー!」
 ジャー、ジャーン。
 音楽がスタートする。
 熱唱しているスキンヘッドの正人を、真由美はチラッと見る。カッコいいなー、と思う。スキンヘッドも見慣れたのかな……、とちょっと可笑しくなる。そして、今日の真由美は通常メイク。正人と自分はそのままの自分だ。
 真由美は音楽を奏でながら、自分が音楽に乗せられていくのがわかる。開放されていく身体と心。ふわふわ飛んでいるよう――。バンドの仲間が懸命に演奏する顔、それを見る同級生たちの真剣な眼差しと笑顔。みんななんて素敵な表情なんだ――。心の持ちようが表情を創る、と思う。
――そう、あたしたちはみんなホワイトスワン、いつだって白鳥のように綺麗なんだ。
 真由美のソロがライブハウスに響き渡る。

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