小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

――お風呂に入って、元の自分に戻るか……。
 そう思ったとき、スマホがブルブルと震えた。
 画面に映った番号は知らないものだった。だが、市外局番が実家のある地域のものだった。
――誰だろう……。
 普通なら無視するが、実家の市外局番が気になった。「はい……」と、恐る恐るスマホに応える。
 スマホの向こうから、『まつだまゆみさんですか?』と女性の声がする。
「はい……」と恐る恐る応えた真由美に、電話の向こうの女性は、『久しぶり。私、白石はなです。覚えてる?』と名乗った。
 白石はな――、真由美の頭がものすごい勢いで記憶を巡る。
 そして、「えっ、はなちゃん……!?」と、真由美は珍しく大きな声を出した。
『白石はな』は高校生のときの同級生だ。真由美が一番仲の良かった女子。控えめでおとなしく親切、そして頭も良かった。だが、大学に進学すると連絡が途絶えてしまい、それ以降付き合いがない。
 連絡の目的は、高校の同窓会への誘いだった。
SNSを使っている何人かが久しぶりに繋がって、同窓会をやろうということになったらしい。SNS系のメディアを使ったこともない真由美の居場所は分からなかったが、せっかくなら会いたいと思い、わざわざ実家に問い合わせ、スマホの番号を聞いたとのことだった。
 スマホの向こうのはなちゃんは、昔と変わらず穏やかで、優しかった。近況をお互い報告しあううちに、昔に戻ったような気持ちになる。あっという間に1時間ぐらい話し込み、続きは同窓会でということになった。
 スマホを耳から離すと、真由美ははたと思う。
――どっちの顔で行こうか……?

 同窓会は良くある居酒屋で開催された。
 恐る恐る居酒屋の暖簾を潜る。宴会席に案内されると、もう20人近くの同級生が集まっていた。
「まゆちゃん!」と声を上げて、1人の女子が立ち上がった。はなちゃん――、すぐにわかった。面影を残したまま、清楚で素敵な女性になっていた。
「こっち、こっち!」と、はなちゃんは自分の横の席に手招きする。真由美は、素直にはなちゃんの横に移動した。
――はなちゃんが声をかけてくれて良かった……。
 クラスで影が薄かったこともあり、久しぶりの同窓会は心細い。
 席に移動すると、「すぐにわかったよ。綺麗になったね」とはなちゃんは興奮気味だ。
――すぐにわかった……?

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