小説

『キレイの在り処』十六夜博士(『みにくいアヒルの子』)

 綺麗と言われたのは嬉しかったが、はなちゃんの言葉にちょっとだけ引っかかる。
 なぜなら、真由美が今日選択したのは、美容室でメイクした顔。本当の自分ではない顔だったからだ。
――自分でも別人と思うのに、わかるのものなのだろうか……。
 はなちゃんの横に座っていた女子が、「ごめん、誰だっけ?」と話しかけてくる。
「あっ、まつだまゆみ……」
 真由美の方は、その女子が誰かすぐにわかった。クラスで最も綺麗だった『菜々美』だ。
「えっ、まゆみ……!? 全くわからなかった。整形でもした?」
 いきなりパンチを浴びせられたような気持になる。
 わからなかった!という反応が来る方が自然だと思っていたが、それを通り越して、本人が気にしているレベルまで踏み込んできた。そういう言葉がさらっと出てくるってことは、きっと自分のことをブスだと思っていたんだろう……。
 思い起こせば、菜々美は昔からそうだった。目鼻立ちが整っていて、背も高く、モデルみたいな菜々美は、街を歩くとスカウトされ、美人にまつわる話が多かった。当然、男子の憧れの的。菜々美は、真由美と反対の世界に住んでいた。自分に自信を持っていたせいもあり、菜々美は思ったことを明け透けに言う。友達の美醜も明け透けに評価することも多く、結構、多くの女子が傷つけられていたと思う。容姿は綺麗だが、性格ブスに近い。
 優しいはなちゃんは、「ちょっと!」と菜々美の方をキッと睨む。はなちゃんに呼応するように、菜々美の前に座っていた女子も、菜々美を叱った。
「菜々美、相変わらず失礼だな。ほんと嫌われるよ!まゆみ、あたし、いのうえみゆき、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。久しぶり」
 真由美はニコッと微笑んだ。美幸は、ひょうきんで女子のムードメーカーだった。
「ごめん、ごめん。でも、まゆみ、綺麗になっていたから、ちょっとビックリした」
 菜々美が素直に謝ってきた。
「ううん、大丈夫だよ」
 素直に謝られたことで、真由美は気持ちを静めた。
――でも、正直に気持ちを言う菜々美に綺麗だと言われるなんて……。
 少し驚きもしていた。やはり、特殊メイクの力はすごい。
 その後、飲み物をオーダーし、おしゃべりを続けていると、ある男子が声を上げた。
「皆さん、注目!今日はお忙しいところお集まりいただきありがとうございます!私、幹事を務めます、やまもとゆうまです。みんなー、覚えてるだろー、俺だよ、俺!」
 男子がそこここで、覚えてるよ!とか、お前なんて覚えてない!とか、声を上げ、ドっと笑いが起こる。
 山本悠馬は、井上美幸と双対の男子のムードメーカーだ。

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