だんだんゼペットじいさんの体から力が抜けていくのが分かりました。
そして次の瞬間、おじいさんは息を引き取ったのでした。その時でさえ、ゼペットじいさんは口元にちいさな笑みを浮かべていたのです。
「なんで笑っているんだろう?」
「それは彼が幸せだからさ」
上から透き通ったようなきれいな声が降ってきました。
空を見上げると、ピノキオの家の屋根に青い光を放つ鳥が止まっているのに初めて気が付きました。
「ミスターブルーバード!」
二人が探し求めていたはずの幸せの青い鳥です。けれでも姉弟はもうそんなに嬉しい気持ちにはなりませんでした。
ブルーバードは青い光に包まれながら、子供たちの横におりてきました。
「きゃあ」
光があんまりにも強くはげしく輝くので、千鶴たちは目をぎゅっと閉じてしまいました。
しばらくして目を開くと、ミスターブルーバードがいたはずの場所には、彼と同じ青い色のスーツに身を包んだ若い男性が立っていました。
「やあ、お二人さん」
男の人は金色の長い髪をひとつにまとめた頭の上に、青いシルクハットをちょこんとかぶっています。二人を見つめる瞳は深く蒼い色をしていて、二人に語りかける声はきれいな澄んだ声をしています。
「ひょっとして、あなたはミスターブルーバード?」
「ミスターブルーバードが鳥になっちゃった!」
目を丸くする姉弟に、男性はシルクハットを傾けて優雅にあいさつをしてみせました。
「いかにも。私はミスターブルーバードであり、幸せの青い鳥でもあり、ブルーフェアリーでもある」
「ピノキオを人間にしたブルーフェアリーもあなたなの?」
「でも、おかしいよ。ブルーフェアリーは女だもの。あなたは男だよ」
するとミスターブルーバードは茶目っ気たっぷりにウィンクをして答えました。
「物事の本質はどちらもいっしょだよ。それがどう見えるかは君たち次第だね」
「それって、どういう意味?」
「人間は分かりきった事もいろんな風に見ようとするってことさ」
ミスターブルーバードの言いたいことが二人にはよく分かりませんでした。ただ、目の前にいるのはミスターブルーバードであり、幸せの青い鳥であり、ブルーフェアリーでもあるということは分かりました。
「あなたはみんなを幸せにしてくれる幸せの青い鳥なのね?」
「だけど、ゼペットじいさんは死んじゃったよ。ミスターブルーバードがいるのに!」