小説

『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)

「私たち帰って来れたのね」
「僕たち帰って来たんだね」
 まだどきどきした気持ちのまま、千鶴たちはリビングにいる両親のもとに向かいました。
「おはよう、おちびちゃんたち」
「おはよう、パパ」
 お父さんは朝ご飯を食べながらテレビを見ていました。
「今年はクリスマスのお祝いが出来なくて悪かったね」
「そんなことよりも聞いて!」
「僕たち、すっごい経験をしたんだ!」
 興奮したまま昨夜の出来事を話しますが、お父さんは笑って相手にしてくれません。
「面白い夢を見たんだな」
「夢じゃないわ」
「本当なんだよ」
 その時、ニュースを流していたテレビに見覚えのある女性の顔がぱっと映りました。
「この人、知っているわ!」
「シンデレラだよ!」
 それは昨晩、お城に招いてくれたシンデレラでした。髪の色や目の色は違いますが、あのお姫様に間違いありません。
「この子は人気グループのアイドルだよ。でも、急に引退することになったみたいだな。一体、どうしてだろう?」
 お父さんは不思議そうに首をかしげました。だけど、二人には分かっていました。
「シンデレラは自由になったんだわ」
 画面に映るアイドルの晴れ晴れとした表情を見て、子供たちは嬉しくなりました。
「見て、あっちには七人の小人がいるよ」
 窓の外では、七人の子供たちが学校に登校するところでした。白い肌をした黒髪のきれいな先生も皆に囲まれながら楽しそうに歩いています。
「白雪姫は小人たちと仲直りできたんだね」
 8人が仲良く登校する姿を見て、子供たちはますます嬉しくなりました。
「あっちにはピーターパンもいるよ」
 向いの通りでは、大人になれない少年にそっくりの男の子が野良猫にイタズラをして、近所のおじさんに怒られています。
「ピーターパンも、これで少しは懲りるかしら」
 素直に謝るいたずらっ子の姿を見て、子供たちはなんだか嬉しくなりました。
「おやおや、この子たちはどうしちゃったんだろう?」
 急に姉弟が手を叩いて喜びはじめたので、お父さんはびっくりしてしまいました。
「お母さん、来ておくれ。子供たちが変になっちゃったよ」
「あらあら、この子たちはどうしちゃったのかしら」
 朝食を運んで来たお母さんもビックリしてしまいました。
「ほらほら、お二人さん。朝ごはんの用意が出来てるわよ」
 お母さんに促されて席に着くと、いつからあったのでしょう。テーブルの上に小さな箱が置かれていました。
「さぁ、二人にクリスマスのプレゼントよ」
「やったぁ」
 今年は貰えないと思っていたのに、なんて素敵なんでしょう。千鶴と充はワクワクしながら箱を開けると、中には手作りの可愛らしい人形が入っていました。
「ピノキオだぁ!」
 ちょこんと座る少年の人形を見て、子供たちはとっても嬉しくなりました。
「ありがとう、お母さん」
「ありがとう、お父さん」
 温かい気持ちのまま、家族はそろって朝ご飯を食べ始めました。
「おや?」
 少ししてから、お父さんが外を見て首を傾げました。
「どうしたの?」
「いや、青い鳥が飛んでいくのを見えた気がしてね」
 それを聞いた姉弟は顔を見合わせました。それから二人は揃って首を横にふりました。
「大丈夫。ミスターブルーバードは、しばらくはうちに来ないよ」

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