小説

『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)

 部屋の中では人形だった少年が、ゼペットじいさんの手を握ったまま泣いています。
 幸せの青い鳥はその様子を見て、満足そうにほほえみました。
「当然さ。私はみんなに生という幸せを与え、同時に死という幸せを与える存在なのだから」
「死が幸せ?」
「死は恐ろしいものだよ!」
 子供たちは「とんでもない」と驚きました。けれどもミスターブルーバードは言いました。
「死は平等だ。貧しい人間にも、金持ちの人間にも同じく訪れるものだ。そして、死を前にした時、人間は初めて幸せというものの本質を理解出来るのさ」
「そんなわけないわ」
「そうだよ」
「君たちは知らないのかい。雪の中でマッチを売るかわいそうな少女も声を失った人魚のお姫様も、みんな私に出会うことを望んでいた。死をもって初めて幸せになれる者もいるのだよ」
 それからミスターブルーバードはイタズラっぽい笑みをみせました。
「君たちも望むのならば、その願いを叶えてあげるよ」
 姉弟は慌てて首を横にふりました。
「私はまだ死にたくないわ」
「僕もまだ死にたくないよ」
 あんなに会いたかった幸せの青い鳥から、今は逃げたくてしょうがありません。おびえる二人にミスターブルーバードは優しく語りかけました。
「それならば、君たちは死を求めるよりも幸せだということになるね」
「私はこれからも決して死を求めたりしないわ」
「僕もこれからも絶対に死を求めたりしないよ」
 幸せを求めて旅を続けた子供たちは、きっぱりとブルーバートの要求を拒絶しました。
「ならばここでお別れだね」
 青い紳士は怒ることなく、笑顔のままうなずきました。
「でも、覚えておくといい。生と死は表裏一体。生を受け入れたように、いずれは死を受け入れる時も来る。それまで、さようならだ。そして、ごきげんよう」
 そして再び青い羽根をもつ鳥に姿を変えると、暗い空へと羽ばたいていきました。別れる直前に残したミスターブルーバードの言葉は、姉弟の心に深く深く響きました。二人は青い鳥の飛んで行った方を、いつまでも手を繋いで眺めていました。
 やがて段々と周りの景色が薄れていき、気が付いた時には自分たちのベッドの中にいました。夜が明けて、窓からお日様の光が注ぎ込んでいます。長い二人の旅は終わりを告げたのです。

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