小説

『ミスターブルーバードをさがして』村山あきら(『青い鳥』)

 姉弟は固く手を握り合いながら心細い気持ちで歩いていると、やがて扉の前にたどり着きました。扉といっても、ひどく地味で気を付けていなければ誰もそこにあるとは思わないぐらいにひっそりと佇んでいました。
 早くこの場所から逃げたくて、子供たちは思い切って扉をくぐりました。
 けれども扉の向こうに出た姉弟はガッカリしてしまいました。全く見慣れない街に二人は出てしまったのです。
「おうちに帰りたいな」
「おうちに帰りたいよ」
 どこに行ったらいいかも分からず途方に暮れていると、通りの向こうから走ってきた男の子にぶつかてしまいました。
「ごめんね。急いでいたんだ」
 千鶴と同い年ぐらいの少年は、二人に謝りました。
「どうしてそんなに急いでいたの?」
「育ての親のゼペットじいさんが大変なんだ」
 男の子の言葉に姉弟は顔を見合わせました。
「それじゃあ、あなたはピノキオなの?」
「でも、人形には見えないよ?」
 まじまじと観察してみますが、男の子はどうみても人間にしか見えません。
「そうだよ。ブルーフェアリーが命をくれたおかげで人間になれたんだ」
 少年は誇らしげに言いました。
「あっと、こうしちゃいられない。急いでいたんだ!」
 それからピノキオは思い出したように慌ててその場から去ってしまいました。
「ゼペットじいさんがどうしたのかしら?」
「ついて行ってみようよ」
 子供たちは人形だった少年が消えた、街はずれに向かうことにしました。
「いた!」
 辿り着いたのは、街の隅っこに建つ一軒のお家でした。今にも崩れてしまいそうなぐらいに傾いていて、ボロボロです。
 その家の窓を覗いてみると、中にはピノキオの姿が見えました。傍らのベッドにはおじいさんが横になっています。
「あれがゼペットじいさんかしら?」
 ゼペットじいさんは頬がげっそりとやせ細っていて、顔色も良くありませんでした。ピノキオはおじいさんの手を握り、何か一生懸命に話しかけています。
「おじいさん、死んじゃうのかな?」
 親子は穏やかな表情を浮かべています。死を前にして恐れないピノキオたちの姿が子供たちには不思議でなりませんでした。
「あ!」

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