ピーターパンは怪訝そうな顔をしながら、首を横に振りました。
「見てないな。ティンカーベルも見てないかい?」
キラキラとかがやく妖精も、ふるふると首を横にふりました。
「また見失っちゃった」
かわいそうに。千鶴たちはすっかり落ち込んで、肩を落としてしまいました。
けれどもピーターパンはあわれな姉弟を励ますように言いました。
「君たちも僕らの仲間に加えてあげるよ。そんな青い鳥なんかいなくても、僕たちはとっても幸せなんだ」
ずっと子供の姿のままの少年は、自慢げに胸を張りました。
「ここでは命令したり、怒ったりする大人なんかいないんだ」
「そうね。誰からも命令されないなんて素敵ね」
「そうだね。誰からも怒られないなんて最高だな」
子供だけしか存在しないこのネバーランドにずっといれば、ミスターブルーバードがいなくても幸せになれそうです。
姉弟はすっかり元気を取り戻しました。
「さぁ、僕たちのアジトに帰ろう!」
千鶴と充はみんなと一緒に楽しく陽気に歌いながら、彼らの隠れ家へと帰っていきました。
子供たちの住処は、島の真ん中にある大きなヒノキのうろをくりぬいて作った階段を下りたところにありました。
「なんだかワクワクするね」
充は他の男の子たちに加わってはしゃぎ回っていますが、千鶴はなんだかガッカリしてしまいました。
なぜなら、親のいない子供たちの住まいはとっても汚かったのです。
洗い物はそのまま、床は埃だらけ、それによく見るとみんなが着ている服からは嫌なにおいがします。
「私の家の食器の方がずっとピカピカだわ」
「でも食器を洗え、なんて口うるさく言う親はいないよ」
「私の家の方がずっと清潔だわ」
「でも服をたため、なんて口うるさく言う親はいないよ」
急に家の中が騒がしくなりました。子供たちがけんかを始めたのです。周りの子供たちは面白がって、わいわいとはやし立てています。だけど、止めてくれる大人は誰もいません。
「まるで獣だわ」
我慢できなくなって千鶴は弟の手を引っ張って、木のうろから飛び出しました。
「みんなが好き勝手にやっているだけじゃない。ひどい所だわ」
千鶴たちには、もはやネバーランドが幸せな場所には思えなくなってしまいました。二人は住み心地のよい我が家が急に恋しくなってきました。
「お母さんのおいしい料理が食べたいな」
「お父さんのおもしろい話が聞きたいな」