小説

『ボクと彼女とアキのこと』島田ひろゆき【「20」にまつわる物語】

 ボクは「何か」を探しているようなフリをして、棚にぎゅうぎゅうに詰まって入っているレコードを抜いたり差したりしている。「何か探しているの?」と彼女が話かけてくるのを心待ちにしているけど、まったくその気配はない。「今、かかっている曲は何ですか?」とでも話しかけてみようか・・でも、その曲が誰でも知っているような有名な歌だとしたら、恥ずかしい気がする、それに話しかける勇気もない。
 とりあえず、彼女に近づくにはレジに行くしかない、レジに行くにはレコードを買えばいい、とぼくは考える(なんて単純)。でも、今、持っている白い馬の絵のジャケットのレコードの値段は4200円、財布に入っているのは2080円。ボクは丁寧にレコードを棚に戻す。入口の横にある段ボールの箱に入っている300円均一のレコードがあるけど、それを買うのはカッコ悪い気がする、それなら、シングル盤ならLPより価格が安いんじゃないかと、シングル盤のコーナーに行ってみる。そこでボクはSmithsというグループの少年が両手を広げて飛び上がっている写真のジャケットがカッコいいと思い気に入る、値段は1480円、これなら帰りの電車賃も残る。しかし、このレコードを買ったところで何になるのだろう?話しかける勇気もないし。それでもボクはそのシングルを引き抜きレジに持っていく。 
 ボクがレコード差しだすと、彼女はジャケット見て微笑んでから何かを言った。ボクがその言葉を聞き逃して、「え?」と聞き返す。
「スミス、好き?」彼女が言う。
 ボクは「好きです」と答える、嘘だ。
「ワタシも好き」彼女はレジのキーを打ち、そして「500日のサマーは見た?」と聞く。
 500日?サマー?夏?知らない・・何?
「見ました」ボクはまた嘘をつく。
「あの映画(映画なのか・・とボクは思う)でサマー(名前なのか・・)がエレべ―ターの中でスミスの歌を口ずさむシーンがあるでしょ、あのシーンが大好き」そう言って彼女は歌を少し口ずさむ「あの女優さん、名前は、えっと誰だっけ・・・歌も唄ってる」
 その時にドアが開き、この前に来た時にいた、いかににもロックを聴いているというかんじの男の人が入ってきて、会話は止まる。
 彼女はオレンジのビニール袋にレコードを入れてボクに渡す、ぼくは「ありがとう」と言って足早に店を出る、彼女がボクと話をしていてサボッていうように見えたら困ると思ったから。

 その日、ボクはレコード屋からは電車に乗らずに歩いて帰る、財布に残ったお金でレンタルビデオ屋で「500日のサマー」をレンタルで借りるために。
 夕食を終えたあと、リビングのソファーに座り「500日のサマー」を見ていると途中からアキもソファーに座り一緒に見はじめる。
 映画を見てボクは、彼女がで口ずさんだ歌が映画の中でサマーが口ずさむ歌と同じことと、サマー役の女優が、ズーイー・デシャネルという名前だというのを知る。

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