小説

『ボクと彼女とアキのこと』島田ひろゆき【「20」にまつわる物語】

 ボクは空いているバーカウンターの椅子に座り、彼女が音楽に合わせて体を軽く揺らしているのを見る。彼女はボクの視線に気付いて、バーカウンターに近づいてくる。
「楽しい?」とボクは聞く、彼女は頷く。
 アキの方をみると、青い袋を受け取って、ヘッドホンをつけている。どれから、アキがボクの方を見たので右手を大きく振る。
「あれが姉さん」と振り向いて彼女に言う。
 アキはボクが見えたらしく、こっちに向かって手を振る。そして、そのあとにボクの耳に聞き覚えのあるギターの音が大音量で入ってくる。
これは、ELOの<ドゥ・ヤ>だ!
 アキはボクを見てウィンクする。
 ボクはなんだか嬉しくなって、好きな歌なんだ!と彼女に言おうとして振り向く。すると彼女は笑顔でボクに手を差し出す、それも左手を。
 ボクは一瞬ためらう。でも椅子から降りて、ポケットから左手を出す。そして彼女に中指がない手を見せる。彼女は一歩前に出てきてボクの左手に彼女の左手を重ねる、ボクは彼女の手を握る、強くもなく弱くもなく。それからフロアの中央へ彼女を連れていく、踊ったことはないけど、どうにかなるだろう、いや、踊れないかもしれない、でも、それでもいいと思う、彼女と一緒にいることが嬉しいんだから。
 20?20-1?ただの数と引き算じゃないか、今のぼくには、そう思える。

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