小説

『20 minutes.』西橋京佑【「20」にまつわる物語】

 『能力販売、大西製薬がやるらしい』
 『ほんとに?株買ってくるわ』
 『そんなことより、ようやく人間の仕事が増えそうだぞ。おまえら筋トレしとけよ』
 『なんで?』
 『どう考えたって、政府方針は人間の再活用だろ。AIの撤廃、人間の力の見直し』
 『人間の力の可能性について語っている割には、AIの良さも認めているからさ、てっきり東ちゃんは日本再生旧派の“役”をAIに演じさせられているんだと思ってたけど、地で革新派だったのかもな』
 『旧派とか確信派ってなんなの?』
 『まじで言ってる?ガキが多くなったんだな、ここも』
 『AIの元で人間が最適に動いていこうとするのが日本再生旧派、AIを撲滅して人間の力で国を動かそうとしているのが革新派。なんとなく言葉のイメージは違うけど、AIが当たり前の世界だからな。ぶっ壊すことが確信派な訳だよ』
 『ところで、みんな記念すべき一つ目の能力は何にするわけ?』
 一つ目はなんだろう。欲しいものは?と聞かれると、散々考えていたものが消えて無くなるように、頭がしらけて何も思いつかなかった。
 『正直さ、AIがなんでもやってくれるだろ。そんななかで突然欲しいものって言われても正直困るよな』
 『結局革新派はそこを論破できていないんだよな。なぜAIを撲滅する必要があるのか、詭弁だらけなんだよ』
 『わかる。正直心が惹かれないんだよ。今回のも結局税金の無駄使いじゃないかなっておもうよな』
 がっかりだ。
 『案外みんな冷めてるんですね。AIなんかに頼らないで生きていける、絶好のチャンスなのに』
 と、気がついたら僕は掲示板に打ち込んでいた。これまでは読んでいるだけの、いわゆる“ROM専”だったのに、人間の再来を待ち望んでいた僕は衝動に突き動かされていた。
 『そういうお前はなにが欲しいわけ?』
 『欲しい能力なんてあるか?欲しいと思う前に、AIに満たされている世界なんだから』
 『お前、もしや東首相だな?』
 『本人降臨きた!』
 水を得た魚のように、掲示板はさらに加熱した。そんなつもりじゃなかったのに、なんだか燃料を投下してしまったようで、僕は脇汗をじっとりとかいていた。
 『物事の良し悪しを正しく理解できる能力、それが欲しいですかね』
 汗が垂れつつある脇を気にしながら、僕はポツポツと書き込んだ。数秒、掲示板の流れが止まったように思えた。
 『どういう意味?』

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