小説

『20 minutes.』西橋京佑【「20」にまつわる物語】

 ただし、得られる能力の効力は24時間。同じ能力は、使用してから2日後、つまり中1日をあけないともう一度使うことはできない。なりたい自分を疑似体験し、理想に近づくこと、そのことが本当にその自分になるための生きる活力を作り出す、そう考えているためだ。
 本記者発表の終了時刻より内閣府のホームページにて能力の一覧検索システムを公開し、自身に必要な能力を計画できるようにする。以上。
 この内容を、首相は1時間にも及んで説明を行った。後からわかったことだが、首相の放送はニュース専用ホログラム投影機だけでなく、ポータブルの情報機器に全て配信されていて、通信制義務教育(かつての小中学校。いまとなっては通う意味なんて微塵もない、と考えられている)ですら授業を中断してこの放送を流したらしい。
 ソワソワする。それが僕の感想だった。24時間しか同じ能力を使えないことには少し納得がいかなかったけど、ついにAIを出し抜くことができるかもしれない。そんな期待を持ちながら、僕はもう一度映画のオープニングから始めることにした。主人公が宇宙船の中で農作業を始めたところで、僕は深い眠りについた。

 日付は変った。能力販売まであと20日。
 僕はいつも以上に早起きをして、朝から能力販売について調べていた。わかったこととしては、どうやら能力販売は飲み物のような形で行われるらしい。イメージで近いのはエナジードリンクだろうか。東首相が言っていた内閣府のホームページには直接的に明示をされていたわけではないが、『飲んだ後、体内に入ってから24時間の効力』があるということが記載されていたのだ。
 「ねえ」
 と、僕は後ろ側のスクリーンの中にいるマギーに話しかけた。たいてい一家族ずつAIを持っていて、いわゆるそのペットAIにはみんな日本的な名前をつけるが、うちのはいつもマゴマゴとして日本語が下手くそだったから、マゴマゴを少し英語っぽくしてマギーと名付けていた。
 「はいはい、なんでしょ」
 「能力販売のこと、カレンダーにいれておいて」
 はいはい、とマギーは言った。モニターにはカレンダーが出てきて、5月24日に星の印をつけた。
 「ちがうよ、4月だってば」
 はいはい、そうでしたね。とマギーは来年のカレンダーを開いた。こいつがアホでよかった、と僕はつくづく思った。AIの中でも鈍臭いやつがいて、あんまり人間と変わらないということに何となく救われる。
「能力販売のこと、もう少し調べてきましょうか?」
「いいよ、だいぶ見たから。あとは考える」

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