言いながらスポーツドリンクを一口、少年は溜息を一つ。
「こんな調子で、後二年かぁ……」
そんな少年の呟きに、スポーツ飲料を飲んでいた少女が口を離すと。
「もう、二年しかないの？」
「そう。正確には、あと７２２日ってところかな」
「短っ！ １０００日切っちゃったの！？」
頷くと、少女は考え込むように顔を下に向ける。もうそれしか時間が無いと見るべきか、まだそれだけ時間があると見るべきか。
「……ねえ」
少女は顔をあげずに、少年に向かって呟く。
「あと、一年ぐらい」
「ダメ」
顔をあげた少女の表情は、とても真剣である。
「最初に言った通りに、ボクがキミとここにいる時間は二十年分。増やす事も減らす事も、どっちもできないからね」
「ケチ」
「こればっかりは譲れない」
頑固な少年に、今度こそ本気で拗ねたらしい少女が口をとがらせてしまう。飲んでいたペットボトルのキャップをしめると、それをポイッと少年に投げる。少年はそれを受け取った。
「もう飲まないの？」
「飲まない」
バッサリと言った口調は、明らかに不機嫌ですという証拠。また溜息をついた少年は、最終的には苦笑するような困った顔になると。
「かけっこ、したくなったな」
「ふんだ」
言いながら真っ直ぐ前を向く少女。この世界で前も後ろもあったものではないが、要するに走る方向の事である。
「次も負かしてやるんだから」
「はいはい」
もうちょっと大人な対応をしてくれたら、自分も少しは楽なのに。そんな事を考えながら、今度は律儀にスタートの構えをとる少年だった。