小説

『勝てない少年』鷹山孝洋【「20」にまつわる物語】

 それで、なんとなく思い出す彼女。自分は、夏休みに学校のプールに遊びに行く途中だったのだと。その時の最後の記憶は、確か横から迫りくる青い車だったはずだ。
 やがて知らない大人たちが入ってきて、彼女にあれこれ言ったり診たりしていた。
 これが、檻の番人が消えた証明。運命通り、ピッタリ二十年の間、小学生の彼女の意識がこの世に浮上しないよう、水平線の世界に閉じ込めていた、少年の消えた理由だった。

1 2 3 4 5 6 7 8