小説

『勝てない少年』鷹山孝洋【「20」にまつわる物語】

 それから、時は流れる。少女は『あと何日』と問いかける事が増えていた。それに対して少年は、残酷に残り時間を知らせてくれる。その度に少女は、もう少し先にならないか、どうにかしてのばせないかと説得を試みる。だが少年は、少女の様々な事に寛容であったはずなのに、そればっかりは頑固に首を横に振っていた。だってそうだろう、少年にだってどうしようもない事、それが二十年という時間だったのだから。
そしてそのうち、少女は問いかける事をやめてしまい。
「よぉ~い……」
 少女の合図に、少年はただ真っ直ぐ立つのみ。
「どんっ!」
 スタートの合図と共に、少女は全力で、少年はタイムラグを挟んで半分ぐらいの速力で走り出した。そしてあっという間に少年は少女を追い越す。
「……うぅ」
 で、少女が泣きだしたらそこで足を止める。もう慣れたもので、タイミングすら予測できるほどに少年もなっていた。
 そろそろかな、なんて思って足をゆるめる少年。最近、少女のウソ泣きが昔以上にこたえるのを理解していた。たとえウソだとわかっていても、少年にはかなりきついものがある。その理由を知っていながら、少年は知らないフリ。だって、そうしなければお互いに悲しいだけだから。
「ふぅ」
 というわけで、少年は足をゆるめてゆき、やがて止まる。それから数秒後には、余力のないぜぇはぁした少女が、少年の事を追い越すはずだったのだが。
「ん?」
 追い越した少女が、鋭角に走る角度を曲げる。それは隣の少年の腹目掛けて真っ直ぐ、突き刺さるように突っ込んでいき。
「っと?」
 そのまま激突、少年の胸に、少女はギュッと抱き着いてきた。
 直後に、少年は理解する。
「……まさか、キミ」
「もう一回!」
 呼吸も荒いままに、少女は顔をあげずに言う。
「もう一回かけっこ! 準備いい!?」
 やけに急いでいる様子は、今までの少女とは明らかに違う。それだけに、少年の確信をより一層強くした。間違いない、少女は気付いているのだと。
「……うん」

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