小説

『赤穂浪士にお邪魔 二十人の愉快な仲間達』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『赤穂浪士』『ぶんぶく茶釜』『笠地蔵』)

 それ処か家来や用心棒類も居らず、人っ子一人して居ません。
「おっかしいな……誰も居ないなんて……」
 忠左衛門、無人の屋敷に不安を感じます。
 すると忠左衛門の肩を叩いて呼ぶ者が。着膨れ雪女です。
「あの~ちょっといいですか……」
「え? あ、何でしょうか……?」
「実は私、吉良さんとはSNSで友達になっていまして……」
「えっ! そうなの!?」
「今、スマホを見たら、吉良さんが投稿してるんですよね。ついさっき」
 そう言って雪女は自身のスマートフォンの画面を掲げ見せてくれます。
 画面には、コバルトブルーのフルーツカクテルを片手に赤地の派手なアロハシャツを着こんで、満面の笑顔で写る吉良上野介。
 ”今年は来年までハワイアン。常夏でのハッピーニューイヤ~ん”
 その投稿を見て忠左衛門は固まります。でもしかし、凝視したその写真を見ていて、あるとんでもない物が映り込んでいるのに気付きます。
 吉良上野介の背後に。
 大っきな浮き袋に身体を通し、頭には真新しいシュノーケル。
 縞模様の水着ではしゃいで砂浜を子供の様に走っている。
 ――大石内蔵助の姿が。
 雪女の見せた写真は、その場に居た全員を猛吹雪中の様に一瞬で凍らせる威力ある写真だったのです。

 

 元禄十五年十二月十五日の早朝。
 吉良邸へと討ち入りし、見事主君の仇討ちを成し遂げた赤穂浪士四十七士一行は、浅野内匠頭が眠る泉岳寺へと歩を進めます。
 凱旋先頭の浪士が掲げる槍先には、討ち取った吉良上野介の首。
 首を包む白風呂敷下から生々しい血が滴り落ちています。
 威風堂々と進む浪士一行に、江戸の町人達からの拍手喝采が。
「よ、日本一の忠義者~」
「あっぱれ、あっぱれ~」
「毎年、ご苦労様~」

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