小説

『赤穂浪士にお邪魔 二十人の愉快な仲間達』洗い熊Q【「20」にまつわる物語】(『赤穂浪士』『ぶんぶく茶釜』『笠地蔵』)

 ええい酔っ払い共が。忠左衛門、血管切れそうになります。
 ふざけ合う二匹の代わりかと、白山羊ユキ爺様が頑張って声を上げようとしています。
「き……き……」
「あ、あの無理なさらずに……」
「……き、昨日の晩飯は食ったかの、婆さんや?」
 忠左衛門、本気だったら色々と面倒くさい方だと思います。
 方や着膨れした身体でもそもそ歩いている雪女は、やる気の無い雰囲気で声を上げています。
「絹ごしは嫌いなんだ~。木綿の方が好きなんだ~」
「い、一体何を言っているんですか!?」
 忠左衛門の指摘に雪女はキッと睨み返し、そしてまた声を上げます。
「絹ごしはツルッとしていて湯豆腐でも冷たく感じるんだ~。木綿の舌触りが何となく私は温かいと感じるから好きなんだ~」
 事細かに説明をして欲しいとは言っていないんですが。忠左衛門、色々な意味で面倒くさい女子だと感じます。
「……ボソボソ」
 赤鬼さんも恥ずかしげに声を上げていました。相変わらず何を言っているのか聞き取れません。
 ぶんぶくが側によって聞き取ってくれます。
「えっと”きしめんが好きなんだ~”だそうです」
 食べ物繋がりで一所懸命に呆けてくれたであろう赤鬼さん。色々な報復が想像出来そうで忠左衛門、突っ込みきれません。
 好き放題、荒れ放題な現状に、頭を抱えていた忠左衛門の背中を叩いて呼ぶ誰かがいます。
 振り返れば地蔵菩薩立像様。
 相変わらずの達筆な文字で書かれた和紙を掲げています。
 ”極楽浄土だ~!”
 もはや吉良どころか食べ物にすら擦らない呆け文句。
 ただ、地蔵様が掲げたお陰か何となく有り難いと感じられ、拝み返してしまう忠左衛門でした。

 
「何処にもいませんね~、吉良キラ様」とぶんぶく。
「もう名前の通り”お星様”になっちゃったんじゃねぇ~? とっくのとうに~」としゃっくり混じり、酔いどれゴン狐。
 忠左衛門、この寒中で二匹に冷たい水でも頭からぶっ掛けてやりたいと思います。
 でも二匹の言う通り、幾ら屋敷内を捜しても吉良上野介の姿はありません。

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