小説

『チヨコ 初号機』洗い熊Q(『魔法使いの弟子』)

「普通に考えたら飲食店とかやればいいじゃないか。お前の腕だったら」
 お世辞抜きにチヨコの料理の腕前は逸品だ。下手な高級店より間違いなく美味い。そういえば何故か調理師の免許も持ってたな? 国籍問わずに様々な料理を作る。
「そうか飲食店ね……店名“チヨコをお食べ”。うん、これがいい」
 いや、いかがわしい店に聞こえるぞ、それ。
「よし! じゃあちょっと大家さんに相談してくる~!」
 と言ってチヨコが飛び出していったが……いや何で十数人一斉に飛び出していく!? と言うか何故に大家さんに相談なんだ!?

 
 ちらりとテレビ見る夕方の生放送の情報番組。
 写っているのはチヨコだ。
「――ここのお店はチヨコさん一人で切り盛りしているんですよね?」とインタビューアが質問。
「――はい、そうです。でも何処の店舗でも同じ味を提供出来るんですよ。凄いしょ?」
 そう言って答える彼女の下に紹介テロップ。チヨコ二十号さん。
 いや可笑しいだろ!? その紹介テロップ! 二十号と付けてテレビ局は何とも思わないんか?
 インタビューを受けるチヨコの背後を見れば忙しく炊事を熟している他のチヨコ達が。
 その光景も可笑しいだろ!? 誰一人ツッコまないんかい。不思議にすら思わないのか。
 チヨコが出した店は繁盛している。美味い多国籍料理店としてテレビにまで紹介される程。
「と、所で今は何店舗あるんだ?」と俺は隣にいたチヨコに聞いた。
「今、全国で二十店舗あるよ。新規店舗は三軒建設中~」
 店名は“チヨコの台所”で何とか納めたが、瞬く間に人気店になって系列店を次々に出店。味は確かに信頼あるがここまでの繁盛は想定外だ。
「しかしお前達、店の出店資金はどうやって用意したんだ!?」
「もちろん銀行融資だよ~。でもね、最初は中々にウンと言ってくれなくて……大家さんが銀行に凄んでくれたらすんなりと融資の話が決まってね」
 どんだけうちの大家は力あるんだ!? 普通はすんなりと融資は決まらんぞ。
「そうそう、ここのマンション一棟買わせてくれたのも大家さんのお陰だよ。電話一本であっさり決めてくれてね」
 いや電話一本って政治家でも早々できんぞ、それ。
「あ~私達そろそろ行ってくるね~」とチヨコ数人がデッカいキャリングケースを引きずって出て行く。
「あ、あいつらは何処行くんだ?」
「あ~フランスだよ、おフランス。パリの店舗開店と共にヨーロッパ全土進出の下見を兼ねて……」
「パッ、パリ!? 海外出店もしてるのか!?」
「一等地にね。あ、それも大家さんの伝手を使ってね」

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