「あ、そうそう。大家さんがアパートの部屋を全部貸してくれるって。どうせ私は増えていくんだからと、相談してみたら来週には何とかしてくれって言ってくれたよ」
ケラッと笑って見せたチヨコ……何号か分からん! というか大家さん、どんだけ力を持ってるんだ!? 他住人を追い出すなんて!?
ここのアパートがチヨコに占拠される光景を思うと貧血でクラクラし始めた。
その悪夢は現実になっていた。
今やこのアパートには俺とチヨコしかいない。チヨコ約九十八人。
そこもかしこもチヨコ、チヨコ。
窓の外を覗けば、アパートの庭先で大量の洗濯物を干し始めているチヨコ達。ここに届けに来る宅配トラック一台、全てチヨコ宛ての荷物だったりする。
発狂寸前の環境の中で俺の仕事自体は順調そのもの。チヨコ達のサポートのお陰とは分かってはいるが。
「流石にここも手狭になってきたね。ちょっと副業で稼いで引っ越そうかシンちゃん?」とチヨコの一人が言ってきた。
「あ? 副業?」
「そうそう。幾らチー達が働いても時給じゃね~。ここらで大きく稼いでね」
「な、何をするつもりだ?」
「流行のアイドルグループをやるとか。九十八人はいるんだし。ATG98とか?」
「ATG98??」
「あべ、ちよこ、現在九十八人」
現在てこれから増えるの前提かい。俺にとっては悪夢のカウントだ。
「お前な、全員同じ顔のグループってどうなんだって話だぞ」
「大丈夫よ~一人ずつ衣装を替えれば。色んなチエコに会えますって感じな」
「毎回九十人分の違う衣装を揃えるなんて金が掛かってしょうがないぞ!? 衣装代だけで破産だ!」
「だったら皆で衣装をローテーションすればいいのよ~。隣の人の服を次は着る平行ローテーション」
「うんなローテーションしたって変わらんわ! サインポールか!? くるくる色違いが流れるだけってか!?」
「え~だったらチーは何したらいいの~?」