たちまち吸い殻は粉微塵になり、シガーケースの中に吸い込まれていった。
手のひらサイズのシガーケースを、シェリフは手の中で弄んだ後、ポケットへと乱暴にしまい込んだ。
「………ほら、完全じゃない。
お前もそう思うだろ?」
シェリフは物言わぬ女児の首に向けて、歪んだ笑みを浮かべてみせた。痛みをこらえているのか、哀れんでいるのか。彼の胸中に渦巻く感情が何であるのか?/わからない。
殺戮現場に、シェリフの鼻歌が静かに流れた。曲名は何か?/わからない。調子っ外れの古い映画主題歌。時代がかったレクイエムが、美しい街の裏側へと溢れ落ちた。
水晶宮“パレス”。
地上で働く、戦闘型水晶妖精が産み出される、原初の場所。
月の地下の広大な敷地に丸々立てられた、水晶じかけの宮殿/絢爛豪華/飛び散る虹色の光。
廊下タイルの紋様、柱の一本、活けられている人工花の一本に至るまで、芸術的な意匠にこられた建物内を眺めていると、まるでここは現世からは遠い理想郷のように錯覚してしまう。
だが、ここの本質は……魂すら凍える殺戮兵器の保管庫に他ならない。
長い長い廊下の迷宮を、慣れた様子で渡り歩くピートとティンク。
「ティンク、大人しくしてろよ」
「べー!」
「舌出さない」
「イー!」
「歯を突き出すのもダメ」
「アタシ、行きたくないのよ!」
「それでも行くの、仕事だろ?」
「仕事バカ」
「お前も戦闘バカだろ?」
「アタシは破壊が好きなの!」
「はいはい、ほら着いたぞ」
マザーの居室へと入室するピート/紅潮した頬/任務達成の報告、その責任から来るものか。
それと対照的なティンクの、退屈そうな表情—眠い/気だるい/面倒臭い。
(報告なんかにピートは、どうしてそんなに嬉しそうになるのかしら)