小説

『ブレイキング・フリーキング・ドリーミング・ドール』糸代芽衣(『ピーターパンとウェンディ』)

 前の子は不味そうな青だったわ。その前の子はキャラメルみたいな黄色だった!凄いわ!凄いわ!これって凄い発見よ!!!」
 血液で頬をまだらに染めて、キャッキャとはしゃぐティンク。こうして見ると、とても愛らしい少女なのに/彼女の股下には切り刻まれた首無し女児の亡骸。
 ピートの二度目の溜息。
 ティンクの欠陥“破壊衝動”、何故見逃されている?/答えはシンプル。ティンクの戦闘能力が、狂妖精”フリークリスタ”随一であるが故の結果/“破壊衝動”は時に爆発的な戦闘能力を産む/その可能性/上は見逃している—-だからティンクのいかなる破壊行為も、国からの仕事の仮面の下に塗り込めてしまえる。
 だが、それもいつまで保つか/ピートの冷静な分析/ティンクの単独破壊行動は、いつか見咎められる。
「………お前、いつか廃棄されるぞ」
「この、アタシを?笑っちゃうわ。
 誰も勝てなかったじゃない、この前のシミュレーター・バトルでも。
 無理よね、アタシのは才能!
 誰が壊すっていうのよ?壊せるっていうのよ?」 
 返す言葉の無いピート。
 そうだった。コイツは化け物なんだった。巨人型戦闘人形も、近接型四枚翅も、クリスタルバレットを操る遠距離タイプも、全員ヒールで打ちのめして粉々に出来る。最強、最狂、最凶、サイコ。イカレ。水晶の水泡。突然変異。偶発的なチート。
「知ってたか?
 人間の言葉に、こういうのがある。
 因果応報。
 意味は……そう。
 やったことは、必ず返ってくる」
「インガ・オウホー?
 どこの国の王の名前かしら?
 ……血の色は何色かしらね?」 
 ピートはとうとう溜息を止める。もう何言っても無駄だ。それに彼はすこし疲れていた/ティンクのお守りはひたすら精神を摩耗させる/コアがチリチリと音を立てている、そんな錯覚。
「ほら、巣に帰るぞティンク」
「はーい」

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