ティンクは、わけがわからないといった風に左の手を/かつて手があった部位を見つめる。蜂の巣になり、ボロボロになった六枚の翅の翅を見つめる/ポタリ、と落ちたのは血涙。スピネル・レッドの雫が、またポタリと。
—-赤い血。アタシの色はやっぱり赤なんだ。左手はどこ?あれ、道の端に転がっている。ピート、怖い顔してる、なんで?そもそも、なんで、アタシのお腹、こんなに大きな穴が空いてるのかしら?何か失っちゃいけないものが、抜け落ちていく気がする。太腿にも穴が空いている。両方の足の付け根にも穴が空いて……、この靴そんなに安くはなかったのに、ピートったらイジワルね、また翠の水晶が—-ピートの弾丸?
ピートの操るクリスタル・バレットが、ティンクの顔面の右半分を抉り飛ばした。
ステンドグラスの破壊跡/穴だらけのティンクはなおも、相棒の真意を探して、前へと歩き続けた。
—片目が無くなった?ピート、なんで、泣き出しそうな顔して……あれ?歩くたびに力がどんどん……。
「ピート、どうして?」
赤い血の結晶華を撒き散らしながら、ティンクは、のろのろとピートへと歩みを進める。
「……………こんなこと、するの?」
「ティンク、お前の心臓を打ち抜く!
お前を完全廃棄する!」
「アタシ、壊したかっただけよ?
ちゃんと仕事はしてたわ、いやよ、ピート、やめてよ、そんな冗談」
死の一矢は放たれた。
心臓部目掛けて、寸分の違いなく。
翠玉髄が、尖晶石の心臓を割り砕く。
「愛してるよ、愛していたよ、今もずっと!君が大切だ、ティンク!!!!
だから、だからこそ、さよならだ!!!」
崩れ落ちるティンクの亡骸を、ピートはきつく抱き留めていた。
—僕は明日にでも、新しいパートナーを割り当てられて、また息の詰まりそうな仕事に戻らなければいけない。
だから、この瞬間だけは君を抱き締めさせてくれ。ティンク。僕だけの一本の真紅の薔薇。誰よりも美しい、鮮血色をした尖晶石の少女を。
その時、一発の銃声が、静寂を破った。
(マザーの仕業か……。
ティンクに近い僕も当然、始末対象だったってことか……)
ピートの意識はそこで潰えた。彼の翠玉髄の心臓片は、ティンクの赤い尖晶石の心臓片と混じり合い、世にも美しい水晶絵図を無機質な路地に描き出していた。緑と赤の合一。相対色の花畑。薄闇の中、水晶光の花は咲いていた。