ピートはマザーに深々と頭を下げ、足取り重く退室した。
途中、仲間たちに絡まれたが、珍しく彼は遊びの輪には加わらなかった。
同室のティンクに合わせる顔がない。今日はもう、彼女と顔を合わせないでおこう。
(戦闘シミュレーションをしよう。
僕自身の手でティンクを葬る為に。
僕は………あのサイコ女に惚れてんだ。
理由なんて、それだけでいい。
一度でいいから、ティンクに勝ってみたかった、それがこんな形で叶うなんて、な)
ピートはシミュレーション・ルームに篭った。
想定戦闘、レベル10。強さを最大レベルまで引き上げた戦闘相手と、真正面から対峙する。
シミュレーション・ドールからの、激しい突きと蹴りの連打。それをいなしながら、ピートは自らの翠玉髄“クリソプレーズ”の翅を静かに展開させる—–。
そして、その日はやって来た。
繁華街のネオンの足元、転がる少年の人形二体。
旧式二体を“完全に”破壊し終えたティンクは、のんびりとした様子で、欠伸を漏らしていた。
「ピート、終わったわ。
退屈だった!
……ピート?」
ピートはひたすら思案していた。
ピートの戦闘形式/遠距離支援型/クリスタル・バレットを操り、ティンクの心臓に命中させる、その可能性、確率、それらを恐ろしいほどの計算速度で処理/すべては自分が心の底から愛している少女=ティンクの為に。
「そろそろ帰りましょうよ?
いつもなら、あなたがそう言う………」
月光を背に、新緑を思わせるピートの翅が音を立てて展開する。
翅の一部がほどけた/瞬時に再結晶/彼の周りを取り囲む翠のクリスタル・バレット。
「ピート???」
「ティンク、愛してる。
いつまでも、どこまでも、永遠に、君が好きだ!!!!」
彼の悲痛な咆哮、宝石の瞳から飛び散る涙。
翠玉髄“クリソプレーズ”の涙/鋭利な弔いの弾丸は夜の街を美しく切り取り、ティンクへと至近距離で襲いかかった。
—-静寂/硬質な水晶の砕ける音/赤い石のシャンデリアを粉砕するイメージ。
「ピート………壊れちゃったの?
痛いじゃない………」