小説

『芋虫の結末』和織(『LA CHRYSALIDE ET LE PAPILLON』ジョルジュ・メリエス)【「20」にまつわる物語】

「・・・でも別に、先生は待ってなくていいからね。もうおっさんだし」
 ふくれっ面になりながら、彼女は言う。そういう年相応の表情を見るのは久しぶりだった。
「できるだけ努力するよ」僕曖昧に答えた。曖昧は、どんな可能性も否定しない。「だから、もうこういう風に教室で待つのはなし」
 石川は目線を上に向けて息をついた。
「はーい」
 その返事を合図に、僕らは立ち上がった。
「先生先行って」
「なんで?」
「見送りたいから」
「変なの」
 僕はドアまで歩いてから、あることを思い出して石川を振り返った。
「本当なの?蝶が魂を乗せてるって」
「え?」
「そう言ってたよね?」
「ああ・・・、そう、きいたことがあるのは本当」
「そっか・・・」
「何?」
「ううん。また明日な」
「先生、私迷惑かけないから」
 そう言った彼女の声には、震えが混じっていた。だから僕は、できるだけやさしく笑った。
「わかってる。それから、石川はね、綾戸真理恵より綺麗になるよ」
 そう言って、すぐに教室を出た。クールな彼女が、今どんな顔をしているのだろうと想像すると、また可笑しくなって、一人でクスクスと笑いながら廊下を歩いた。

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