小説

『芋虫の結末』和織(『LA CHRYSALIDE ET LE PAPILLON』ジョルジュ・メリエス)【「20」にまつわる物語】

「蝶の?」
「親近感があるの」
 石川は細かく頷きながら言った。蝶に親近感?彼女が変わっているだけだろうか。それとも、これはニュージェネレーションの思想なのか。だとしたら、自分も歳を取ったものだと思った。
「どうせならカラーの方がいいんじゃないの?」
 我ながらおじさんらしい質問だと思いながら、僕は言った。すると、それに冷水をかけるような言葉が返ってきた。
「いいの。見た目だけじゃなくて在り方が好きだから」
「在り方?」言いながら、自分の目が丸くなっているのがわかった。「・・・蝶の、存在?」
「蝶が生きてること自体がいいの」
「ほう・・・」
 僕は首を傾げて見せたけれど、彼女はそれ以上説明する気はないようだった。
「先生は、ちょっと怖いかな、蝶って」
「怖い?」
「うん、なんかね」
「蝶って、魂乗せてるんだって」
「え?」
「そういう話聞いたことある」
「へぇ・・・」
「でもこの映画、意味わかんない。なんで最後、男が芋虫になるの?」
「さぁ」
「綺麗な人が好きなら、最初から綺麗な人間に恋すればいいじゃん。そうすればわざわざ芋虫に魔法かけなくてもいいし、自分が芋虫にされることもなかったのに」
「うん、そうだけど、まぁ、あの頃の人が考えてたことなんてわからないよ」
「ちょっとぐらい考えてよ」
「え?」
「ちょっとぐうらい考えて」
 そう言われて、仕方なく少し考えたけれど、そうしているうちに、石川はクスクス笑いだした。
「何だよ」
「ううん。もういいや。じゃあね、先生」
 サテンのリボンみたいな髪を揺らしながら、男っぽい歩き方で、石川は僕を教室に置き去りにしていった。

 

 次の週も、案の定石川は一人教室に残っていた。机にもたれかかって、頭を窓の方へ向けている。

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