「本当、いい加減にしないかなぁ君は。いじめにでもあってるのかって、先生は心配です」
僕はそう言って、彼女の隣に座った。それでも、彼女は姿勢を変えない。それどころか、ここから動くつもりはないとアピールするように、さらに体制を崩す。
「性別関係なく、割とモテる方です」
だけどそんなことはどうでもいいという声で、石川は呟いた。
「それが現状なら、まぁ安心です」
「心配しないで。悩み事があっても、先生には相談しないから」
「え、なんで?」
僕がそう訊くと、石川はやっと顔を上げてこちらを見た。
「私の悩みなんかどうでもいいくせに」
「なんでそうなるかな」
「私に興味ないじゃん」
「なんで急に拗ねるのかな」
「JKの考えてることなんてわからないでしょ」
言いながら、彼女はまた顔を背ける。
「JKだって、おじさんの考えてることはわからないだろう?」
「私が綾戸真理恵くらい綺麗だったら、少しは興味持った?」
石川が言った言葉が、頭の中で三回ループした。どうして、彼女の口からその名前が出てくるのか、どうして、どうして、それも、何度か繰り返さないと、言葉にならなかった。
「どうして・・・」
驚いている僕を見る石川の目が、徐々に開かれていく。お互いきっと、同じような表情をしていた。
「本当に、そうだったんっだ」
「何?」
「カマかけてみた」
「なんで・・・・・」
「もしかしたらって思っただけなの。先生と綾戸真理恵、同じ高校だったって話で盛り上がってるとき、先生顔が強張ってたから」
授業中、生徒に出身高校はどこなのかと聞かれたとき、深く考えずに答えた。でも生徒の中に綾戸真理恵の出身高校を知っている者がいて(その生徒の兄が真理恵のファンだったらしい)、同い年だから同級生じゃないのかと騒ぎになってしまったのだ。でも、「確かに同級生ではあったけど、殆ど話したことはない」と僕が言うと、生徒たちは皆僕を一瞥してから、「まぁ、そりゃそうだよね」と納得していた。と、そのときは思っていた。