小説

『ゆみこと柱神さま』はやくもよいち(『天道さん金の鎖』)

「身のほどを知れ!」

柱神さまが一喝すると、赤い火炎が口からほとばしり、化け物の顔を焼きました。

オドロゲは頭のてっぺんからつま先までふるえています。
怖くて怖くて、しかたがない様子です。
よだれまみれの口から、悲鳴がもれました。

「今すぐ、ここから立ち去れ!」

柱神さまが命令すると、化け物は黒い風のように階段に向かって飛び、またたく間に姿を消しました。

オドロゲが去ると、柱神さまが口を開きます。
顔にくっついているお面がしゃべると、どういうわけかゆみこの口も一緒に動くのでした。

「どうしてあんなのろいを受け入れたのだ」

そう聞かれても、返事に困ります。
まるで自分で自分に質問しているようで、なんか変だなと思いました。

「なぜ朝まで、がまんしなかった」
「だって。帰ってきたら、ママが食べられちゃうじゃない」
「あれはうそだ。化け物は一人でいる時しか家に入れないと教えたぞ。なぜがまんしない」

柱神さまは低くひびく声で聞いてきました。
「妹でいいわ」と言ったことを怒っているのです。
ゆみこは口をとがらせて答えました。

「だって、生まれてくるのは男の子だもん。弟に決まっているの」

柱神さまは底ひびきのする声で、ゆみこを叱ります。

「神でさえ分からないことを、お前ごときがどうして分かる。妹が生まれたら、どうするつもりだ」

「お医者さまが赤ちゃんの写真を撮ったの。『男の子ですよ』って。ゆみこ、ママと一緒にお話し聞いたんだから。写真、見たもの」

ゆみこはママのおなかにいる弟について、いっしょうけんめいに説明します。
神さまは口を出さずに話を聞いてくれました。

しばらくすると柱神さまは、あごをさすりながらたずねました。

「するとお前は、オドロゲをだましたのか」

ゆみこは、「うん」と首を縦にふります。

「だって怖くて、がまん出来なかったんだもの。それにママやパパや赤ちゃんと、手もつなげないなんて。ぜったい、やだ」

「ははははは! ひーっ、ひっひ。ほーっ」

神さまは、火柱を吹き出しながら笑いました。

「なんて子だ! ゆみこ、お前はチビで力もないくせに、化け物を手玉に取ったか。それどころか、わしまでだますとはな」

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