ただ一人だけ、えらく女子力の高い年下の女の子だけが「先輩、今日いつもより可愛くないですかあ?」と、言ってきたけれど何とかして誤魔化した。
週末になり、私は一人で例のバーに立ち寄った。目的は、もちろんマスターに会うことだ。
『あ、いらっしゃい。ほんとに来てくれたんだ」
「しかも一人で」
目尻にシワを寄せながら笑うマスターを見て、私の胸はキュンとした。
先週と同じく、そのまま朝まで飲んでいたかったけれど、少し動悸が激しくなってきた。
何だろう?飲み過ぎかな。
「マスター、私そろそろ帰りますね」
『あ、待って!これ』
そう言ってマスターが私に渡したのは、こないだ貰ったお店の名刺だった。
「私これ、いただきましたよ」
『裏見て、ウラ」
手書きの電話番号。
『今鳴らしてみてくれる?』
「あ、はい」
書かれた電話番号に自分のスマフォから電話をかける。
『もしもし?」
目の前にいるのに、マスターがふざけて電話に出た。
『明日俺からかけるから、ちゃんと出てよ?」
「わかりました」
『よし。じゃあ気を付けて帰ってね』
目尻のシワが愛おしい。
なんて悠長に考えられない程、胸の動悸は激しくなり、家に着く頃には息切れを起こして、直ぐ様ベッドに倒れ込んだ。