小説

『対価』久保沙織(『人魚姫』)

「まだやってんの…」
 やれやれと呆れつつ、またも連中の横を通る。

「ねえ!キミちょっと待って!」
「え?」
「やべー!超かわいいじゃん」
「マジだ!一緒に飲みに行こうよ!」

 これは、一体何事?
 ついさっきまでは、私の存在に気付きもしなかったのに。

「でも私お金持ってないし」
「金なんて俺らが出すからさ」
「近くに良いBARがあるんだ、そこ行こうよ」
「華金だし、いいじゃん」
「お酒飲めるよね?」
「あ、はい」

 放ったらかしにされている女どもの視線がキツい。
 私は肩を掴まれ、半ば強引にその場から連れていかれた。
 道中、彼らから質問責めになっている時も曖昧な返事しかできない程に、状況が上手く飲み込めずにいた。

 もしかして本当に私…。

『お飲み物は?』
「え…」
 はっとして辺りを見渡すと、そこはもうBARのカウンターだった。

「あの、私、お手洗い行ってきます!」

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