そう思っているのに、私はここに入らないともう後には戻れない、そんな気がしている。
恐る恐るドアに手をかけドアノブを回すと、扉はひどく錆び付いていて重たかった。
『やっぱり来たね』
『お前にはこれが必要なのさ』
建物の中には老婆がいた。椅子に腰掛け、どうやら私を待っていたみたいだ。
目は窪んでいて、光を宿していない。鼻の先まで深くシワが刻まれている。纏っているもの全てが黒い。
私は咄嗟に「この人は魔女だ」そう思った。魔女なんておとぎ話のはずなのに。そして、今し方聞こえた声の主は、この老婆だと確信した。
『お前は自分を変えたい』
『そうだろう?』
さっきから何かが可笑しい。やけに声が不鮮明に聞こえるのだ。老婆は目の前にいて、私に話しかけているというのに。
『あたしはね』
『お前みたいなやつを見付けては救ってやってるのさ』
何か、がわかった。違和感の正体は老婆の口が動いていないことだ。話しているのに口が開いていない。老婆のこの声はどうやって私に届いているのだろう。「やっぱりこの人は魔女だ」きっとそれしかない。目線はわからないけれど、老婆はずっと私を見据えている。
「私みたいなやつって?」
『変わりたいのに変わろうと努力をしないやつさ』
「誰も変わりたいだなんて…」
『思ってないのかい?』
「だって今更どうしよもないじゃない…」
『だからあたしみたいなやつがいるのさ』
ひひひ、と魔女みたいな老婆が笑う。
「何か方法があるの?」